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リレーエッセイ 第14回配信

2023年07月01日配信
JTBF 広報委員会

 

2023年JTBFミッションを終えて



東南アジアの新規株式公開(IPO)が最近になって増加傾向にある。日本経済新聞によれば、202316月の動向を調べると前年同期から4割増を示している。若年層を中心とした人口増を裏付けとした旺盛な消費需要を狙う内需企業など、例えば配車アプリ大手や不動産、が例である。コンサルティング/会計事務所のデロイトによれば、2023年上期の東南アジアでの新規上場は85件、全体で30億米ドル以上の資金調達となっていて世界でも注目されており、国際通貨基金(IMF)の予測では今年の同地域は4.5%の伸びとしている。(2024年は4.6%)また、同地域の新規株式公開会社の時価総額は200億米ドル以上、インドネシアでのデジタルエコシステム最大手のGo To Gojek Tokopedia の上場(約11億米ドル調達)のあった2022年と比べて超大型新規公開がなかった為、時価総額的には年度比では若干減となっている。ただし、東南アジアでの新規上場件数は順調に増加しており、特に大型公開が続いているインドネシアを中心としてIPOは今後も堅調に進むものと思われる。

 タイの証券市場

その中でも日本とは深く長い関係のあるタイの証券取引所をより理解することは肝要と考えてデロイト・タイランドの情報提供などの協力の下に本稿を作成している。

タイの証券取引所(Stock Exchange of ThailandSET)はアセアン諸国の中ではシンガポール市場(SGX)に続き大きな資本市場である。ただし、インドネシア証券取引所(IDX)は最近の大型上場でもわかる通りタイに迫る勢いで急伸している。タイの証券取引所市場には主要市場であるタイ証券取引所市場であるSETと新興・成長企業向け市場であるMAIMarket for Alternative investment)の2つであったが、昨年初めに創設されたLive Exchangeという中小企業向け市場も今後は考慮する必要がある。20236月のSETの時価総額は5215.24億米ドルであり時価総額加重平均型株価指数であるSET指数で株価変動を算出している。また、2023年になってタイ国内での会計不正事例や中国など海外市場の動向等から株価低迷が顕著となり市場活性化と監視を適格とするためSETは上場ルールを見直した。

 2023年1月時点のタイ上場企業総数は878社(内訳、SET 681社、MAI 197 社)、産業別に言うと不動産・建設が24%、サービス関連が21%とタイの主力産業である製造業(15%)よりも上場企業数は多い。

語彙

産業

セクター

農業

Agri, Food

工業

Automotive, Industrial Materials and Machinery, Paper, Petro, Packaging, Steel

金融

Bank, Finance & Securities

サービス

Commerce, Health Care, Media & Publishing, Professional Services, Tourism & Leisure, Transportation & Logistics

テクノロジー

Electronic components, ICT

資源

Energy & Utilities, Mining

消費財

Fashion, Home, Personal products and Pharma

不動産・建設

Property & Construction, Property fund & REITs, Construction services


 最近のタイの新規株式公開

東南アジアの主要経済の一つであるタイでも資本市場は活発で、2023年度上半期の株式公開件数は18件、

総資金調達額は517百万米ドルと順調に伸ばしている。SETでは24社が上場しているが産業別では7社の農業や5社の不動産建設が多いのに対して18社となったMAIの上場はサービス業が7社と多い。

 

デロイトの報告書¹ではタイにおいて2023年上半期に株式公開した上位4社を紹介しているがその内二つを見てみる。

1.Master Style Public Company Ltd.

事業内容:Life Science and Health Care:美容整形を中心として施術する病院経営  

証券市場:中小企業等向け証券市場であるMarket for Alternative investmentMAI)市場での上場

資金調達額:91百万米ドル

時価総額:337百万米ドルドル

2.Millenium Group Corporation (Asia)Public Company Ltd.

事業内容:Consumer Business(自動車販売業)

証券市場:Stock Exchange of ThailandSET)市場での上場

このようにタイでの株式公開実績は規模的には経済が急拡大するインドネシアの資源エネルギー関連やIT系の株式公開と比べて小粒という印象は拭えないが、タイ経済の比較的高い成熟度を反映して金融サービスや消費者関連など多岐にわたる実績となっている。

 タイの証券取引所

タイ証券取引所は1974年に創設されているがThe Securities and Exchange Act of 1992(タイ証券取引法)の下で証券取引等を運営している。タイの証券取引には市場として主要な市場であるSETと中小企業や成長企業向けのMAI Market for Alternative Investment)がある。

MAI1999年に開設されたタイの証券取引所第二部市場で上場基準などが比較的緩やかで新興・成長企業対象なっている。

MAIについては、5,000万バーツ以上の払込資本金(株式公募後)1,000万バーツ以上の純利益 (1,000万バーツ未満の企業でも時価総額が10億バーツあれば上場要件満たすことが可能と一定以上の規模要件もある。そのため、Maiの上場要件に満たせない新興・成長企業も多く、20217月にタイSECより中小企業及びスタートアップ企業向け市場(SMEボード)の上場基準に関するコンサルティングペーパーが出されて20211月にLive Exchange市場が創設された。

普通株によるタイ上場基準

 

上場資格

The Stock Exchange of ThailandSET)タイ国証券取引所

Market for Alternative Investment (NAI)

(中小企業向けの)代替的投資市場

会社の分類

Public Limited Company(公開有限責任会社)または特別な法の下で設立した会社であること

払い込み済み資本金(株式公開後)

300百万タイバーツ以上

50百万タイバーツ以上

財政状態と流動性

―資本の部総額が最低300百万バーツで債務超過になっていないこと

―健全な財政状態で十分な運転資本があること

―資本の部総額が最低50百万バーツで債務超過になっていないこと

―健全な財政状態で十分な運転資本があること

実績

 

利益アプローチ(Profit Approach

3年間以上の経営実績、その内申請日直前の年度は同一経営陣

―過去2年又は3年累積で50百万バーツ以上の経常利益、また過年度の純利益が30百万バーツ以上、そして申請日直前の期末に累積利益があること

利益アプローチ(Profit Approach

2年以上の経営実績、その内申請日直前の年度は同一経営陣

―過年度の純利益が10百万バーツ以上、そして申請日直前の期末に累積利益があること

 

 

時価総額アプローチ(Market Capitalization Approach

ー10種類の指定された産業セクター*

―時価総額が7500百万バーツ以上

―3年間以上の経営実績

―直近の営業収入が5000百万バーツ以上

―指定された産業セクターからの収入が総収入の50%を超えること又は1000百万バーツ以上で20%以上の伸びがあること

時価総額アプローチ(Market Capitalization Approach

―10種類の指定された産業セクター

―時価総額が2000百万バーツ以上

-2年間以上の経営実績

―直近の営業収入が2000百万バーツ以上

―指定された産業セクターからの収入が総収入の50%を超えること又は200百万バーツ以上で20%以上の伸びがあること

 

公募承認

SECによって承認されること(特定の法の下で設立された法人除く)

―引受人(Underwriter)を通して売り出される

ー財務アドバイザー(Financial Adviser)を選任すること

売り出される株数総数は払い込み済み資本金の15%以上(SET対象の株式については例外あり)

企業統治と内部統制

資本市場監視ボード(Capital Market Supervisory Board)が示す監査委員会の責任と義務を定義

財務報告と監査人

―資本市場監視ボードの規定及び財務報告基準(Financial Reporting Standards)に基づき財務諸表が作成される

SECが認可する監査人の任命

注:その他、少数株主、経営陣、利益相反、準備基金、資金調達の目的(時価総額アプローチを採用する場合、半分以上の調達額が指定された産業セクターに使われること)、発行者及び財務アドバイザーによる開示(時価総額アプローチに適用)などの規定もある

*「タイ投資委員会(BOI)が指定する特定の産業についてのSET市場上場への適用」が今年6月に変更され、「タイ証券取引所が指定している10の産業セクターについてのSET市場及びMAI市場上場への適用」となった。これにより、規模的にまたは収益的にまだ発展途上の成長企業に資本市場をより開放できると考えている。

10 Target Industriesとは:Advanced Agriculture and Food, Biofuels & Biochemicals, Medical for future, Creative Tourism, Next-Generation Automotive, Aviation & Logistics Total Solution, Digital & E-Commerce, Smart Electronics, Robotics, Technology And Innovative Development

**20236月の上場基準見直しと同時に、SETはタイ証券取引委員会(SEC)と共に上場企業の継続上場に関して、財政上の懸念があったり収益面で問題がある場合に“C”サインを遅滞なく出すことで監視を強化する。また、上場廃止ルールや裏口上場ルールの見直しも行った。

 新たな中小企業向け市場

タイ経済において中小企業(Small and Medium Enterprises-SME)はその数(OECDによれば2020年にタイにある企業総数の95%以上)などから重要な役割を担っている。また、スタートアップ企業はタイでの生活や社会が変革され成長するためには必要不可欠の存在である。これらの企業の資金調達をより効果的かつ柔軟性をもっておこなえる方策として昨年1月よりSMEやスタートアップ企業を対象とした「Live Exchange」と呼ばれる新しい資本市場を創設されている。

会社の分類としては公開有限責任会社の形をとるという点では変わらないが、株式公開後の払込資本金についてはLIVEについては規定されていない。SMEの実績については;

l  製造業の場合は収入基準が100百万バーツ以上500百万バーツ未満、従業員数が50人以上200人未満

l  サービス業・卸売業・小売業の場合は収入基準で50百万バーツ以上300百万バーツ未満、従業員数が30人以上100人未満となっている。

l  スタートアップ企業についてはベンチャーキャピタルかプライベート・エクイティ・ファンドが投資をしているものが対象となる。

引受人は必要だが財務アドバイザーはオプションとなっている。また、財務報告については、SETと同様に、財務報告基準に基づいて財務諸表であり、SECによって承認された監査人が監査を行う。

この市場の特徴的なこととしては、投資可能な投資家は機関投資家やPEなどのプロフェッショナル投資家(professional Investor)、該当企業の特定関連者、SECが適格と認める投資経験のあるファンドマネージャーなどの投資家、富裕層の投資家(High Net Worth Investors)や超富裕層投資家に限定される。

 終わりに

デロイト・タイランドの協力の下タイにおける証券市場の今についてまとめてみた。文中でもある通り、昨年に中小企業向け市場Live Exchangeの創設、そして最近の成長企業などに向けた新規公開市場の拡大や会計不正などに対する監視体制の強化などタイ証券取引委員会(SEC)やタイ投資委員会(BOI)などとも連携しながら見直しを行っている。今後もその動向を注視しながらタイでのスタートアップ企業動向を見守っていきたい。

 参考文献:

1.      SET Thailand: Listing regulations Simplified Regulations

2.      SET Thailand: Common Shares Listing Admission June 2023

3.      ¹Deloitte Thailand: Southeast Asia Mid-Year IPO snapshot

4.      Deloitte Thailand: IPO Newsletter 2023/01

5.      Deloitte Thailand: Thailand Economic Outlook Report 2023

6.      野村資本市場研究所:ポストコロナを見据えたタイ資本市場の強化に向けた取り組み 北野陽平

7.      Thailand Board of Investment:デジタル産業に対するBOIの投資恩典について(2023/01)パラマ・チャイヤスッシワ

8.      ジェトロバンコク事務所:タイのエコシステム調査報告書(2018/09


文責 内村治