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最近のバンコク事情

加藤 寛二
日タイ・ビジネスフォーラム ロングステイ委員


バンコク夜景タイ駐在経験者で「タイ好き人間」になった人が多いと言われているが、私自身も1995年に7年間の駐在を終えて本帰国した後も、ちょくちょくバンコクを訪れてはタイ・ライフを楽しんでいる「タイ好き人間」の一人である。ちょくちょくと言っても、昨年は4回、今年は8月までに既に5回も訪問しているので並みのタイ好きではないと自認している。

そこで、度々の訪タイで感じた最近のバンコク事情について若干記してみたいと思う。


1.BTSと地下鉄

BTS(スカイトレインとも言われている)と地下鉄の開通によってバンコク都内の交通移動様式は、以前に比べて格段に変化し利便性が増してきたと言える。

鉄道の開通によって一時は解消されると言われていた道路の渋滞は、その後も予想に反して一向に解消されてはいない。スコールが襲来したり、何かのイベントがあると忽ち道路渋滞が始まるのは昔と何ら変わってはいないが、この様な時でも車を使用せずBTSと地下鉄さえ利用すれば時間を計った行動が出来るようになったのは大きな変化である。

車で移動している人の中にも、どうしても遅刻できない重要な用件を抱えている場合は、BTSや地下鉄添いに車を走らせ、道路渋滞でインタイムの到着が危ないと見れば、車を捨てて最寄りの駅から鉄道に乗り換えるという手段を使っている人が多くなったと聞く。

BTSや地下鉄はラッシュアワーでも日本の電車のような体と体が接して身動き出来ないほどの混雑はまだない。座席もクッションの効いた布製ではなく、硬いプラスチック製だが明確に一人一人の座席が区分されているので、日本でよく見かける様な一人で2座席分を占領する不貞な行動は出来ないようになっているのが中々良いと思っている。

しかし、初めてBTSに乗って、車内のあちこちで周囲の人に構わず携帯電話を大声で話している光景に接したときは少々異様な感じを持ったものである。日本人から見れば正に傍若無人の振る舞いで鼻つまみものだが、タイでは風俗・習慣的に許されていることであろうか。

また、若者が老人・子供・妊婦などに積極的に席を譲る光景はすがすがしく、我が日本で失われかけた敬老・謙譲の美徳を改めて見せつけられたような感じがしたものだ。

特に妊婦が大事にされている感じがあるが、大人が子供にまで席を譲るのはどうかと思う。私見としては感心しない。我が家では孫達には、年寄りが一番体が弱いのだから子供は立って席を譲るべきだと教え込んでおり、5歳の孫娘もわれわれが据わっている前で立つことにしている。少々可哀相だがこれが教育だと考えて懸命に我慢して座っているのである。

2.ゴルフ事情

タイのゴルフ場十数年前までは特別な人を除いて、一般のタイ人でゴルフを楽しむ人は殆ど居なかったと言ってよいと思う。6~7組の社内コンペでもタイ人従業員の参加者は一人も居なかったものだが、十年ほど前からは参加するタイ人が急激に増え、しかもめきめきと腕を上げ、ここ数年ではコンペの上位3人は常にタイ人で占められていると聞いて驚いている。

訪タイ時に時折一人でぶらりとコースに出ることがあるが、大抵の場合は組み合わされる相手はタイ人であり、しかもシングル級の人が相当に多いことにも驚きがある。

最近では一般のサラリーマン風のプレヤーも多くなり、私のメンバーコース(現在休眠中であるが)では毎週木曜か金曜日はタイ人のショットガン式トーナメントで埋められているとしてプレイを断わられることが多くなったほどである。

ただ、タイ人のゴルフ歴が浅いだけにマナーとなると顔をしかめたくなるようなことが多かったが、最近では少し様子が変わってきた感じがする。グリーン上で賭けに興じて、騒いだり叫んだりしながらだらだらとプレイされていらいらさせられた経験を持った方も多いと思うが、最近のタイ人に関しては、それはめっきり少なくなったと認識している。

ただ、これに変わってマナーの悪いのは日本の極くお隣の国の旅行者か駐在員らしい集団で、上記のような光景をよく目にするし、更に後続組が待っているにも関わらず連れて来た子供にコース上でスイングの指導をしているグループに遭遇して辟易した経験がある。

一方たまたま、一人でラウンドしていた時のことである、ショートホールでホールアウトを終えて次のテイグランドに近づくと、前の組のタイ人全員が打ち終わったところに続けて打てというのである。一緒にプレイしようという意思かと思って打ったところ、「お先にどうぞ」と言う。パスさせてくれると言うのである。帽子を取って礼を言い通り過ぎると、にこりとして「チョーク・デイー」(「幸運を」とでも訳すべきか)と言ってくれて実にすがすがしい思いをした。

ところがその前の組でも同様の方法でパスさせてくれたのには目を見張るような驚きを感じたものである。

他のコースでもそれぞれ別に2回もパス・サービスを経験して、(勿論マナーはこれだけには限ったことではないが)、タイ人プレイヤーのマナーが最近特に良くなったのは本物だと確信するに到ったものである。

3.泣く泣く行き、泣く泣く帰国

私自身がタイ行きをアサインされた時も、どのような国かも知らず不安の内に赴任を受け入れた経緯があるほどで、私の家内も他の駐在者や奥さん方も同様に大きな不安を持って、大袈裟に言えば「泣く泣く」タイに赴任したものである。

しかし、2年から3年も駐在して言葉が理解できるようになると、タイ人の友達や、従業員が顔を覚えてくれる行きつけの店なども出来て、タイ人との接触が多くなり、彼らの親切心や根っからの優しさが身に沁みて分かる様になってくる。

更に、日本の我が家にはない広くて便利な住まいや、物価が安いことからリッチな生活ができる上、メイド・運転主を使用する優位性などが身について来て、今度は帰国して元の生活に戻らなければならないのが耐えられなくなる。いわゆる「泣く泣く帰国」するという図式が生まれるのがバンコクである。

4.ロングステイヤー

私の知人で、タイでロングステイヤーとなっている人は15人を下らない。

自分で会社を起こして事業家となっている人が3人、日本の会社をリタイヤした後タイに移住して、自分のキャリヤを活かして日系のタイ現地会社に雇われている人が7~8人などである。中には駐在を終えて泣く泣く帰国した直後に奥さんが脳出血で倒れ、その介護をするためにリタイヤメント・ビザを取得し、タイにリターンバックして住みついている人もいる。(7月7日西日本新聞「妻のリハビリ 海外で」)

高い医療技術がある上、毎日2時間もの十分な時間をかけてリハビリ訓練をしてくれるし費用も安い。何よりも介護を手伝ってくれるタイ人の懇切・丁寧さが日本にはないものがあるとのことである。

ロングステイヤーが便利に使っているものに「クラブタイランド・カード」がある。入会金300バーツ、年会費980バーツで主だったレストランの5~20%引きや、タイ国内120の提携ゴルフコースでの20~50%の特別割引、スパ、マッサージ、ランドリー等の割引きサービスなどの特典が受けられるとあって、現在12,000名余が加入していると言う。

また、少々高級なメンバーシップとして「タイランドエリートカード」がある。世界で始めてと言われる「タイへの外国人専用の会員制エリートクラブ」のことであり、観光旅行、飲食、健康管理へのサポートにも特典が与えられており、さらに数次観光ビザが付いているのが特徴であり、ビザ取得に悩んでいる人には朗報に聞こえる。

しかし、入会金が百万バーツもすることが問題である。書き換え料10%を払えば何時でも他人名義に変更できる(いわゆる売買可能)というが、この権利の流通市場がある訳ではなく自分で買い手を探さなければならないことが問題である。

その他、タイ・ロングステイ・マネージメント(TLM)社がロングステイヤーのための新特典カードと銘打って、有効期限90日から1年間で会費100~1,800US$のメンバーカード制度を発表しているが、SIM(携帯電話用プリペイド・カード)の支給や空港接遇、24時間コールセンター対応等のサービスは良いとして、肝腎のロングステイ・ビザ受給に関する対応が不明確等の欠陥があり、余り普及していない模様である。

いずれにしても、最近マレーシア、フィリピン、台湾等の近隣諸国が日本の団塊世代の大量退職が始まることを視野に入れて、ロングステイヤー受け入れのための種々の誘致策を検討・発表している。これに対抗して、タイに於いても近隣諸国に負けないだけの滞在施設の整備をはじめとし、ビザ発給条件の緩和、延いては団塊の世代の技術を活かすためにも就労許容(ワークパーミットの発給)等の思い切った措置が取られることを期待する者の一人である。

5.クーデター

この原稿を書いている最中にタイでクーデターが発生した。

クーデターと聞けば余り響きが良くないが、特に近年のタイのクーデターは一般に考えられる様な発砲だの処刑だのと言う陰惨なものはなく、権力者の汚職体質や独裁体質が惹き起した「政治的な混乱」を打開するための一種の政権交代の儀式のようなものと化した傾向がある。特に今回のように国王がいち早く承認を与えたクーデターは錦の御旗を得たようなもので国民の賛同者も多く、これに反対する動きは起こり得ないと考えられる。

今回のクーデターは、民主化という意味では大きく後退した印象を世界に対して与えてしまったことは甚だ残念なことである。

なお、正式な民主政権が発足するまでには約一年近くの時間が必要になるものの、一般市民の生活やロングステーヤー・旅行者等には全くと言って良いほど影響は与えないと言い切って差し支えないと思っている。

2006年9月
(日タイ ロングステイ交流協会 Newsletter Dec.2006 No.5 に掲載)



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