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日本食品産業の特徴と最近の動向 (1/2)

寄稿:有川武俊(JTBF副会長、JTBF・FTA委員会委員長)



本稿は、2008年3月12日(水)、AOTSにて東アジア食品産業管理者研修で講義した内容をまとめたものです。

  ページ インデックス

  1. 日本の食品産業の特徴
    市場規模の変遷 /  業種別規模/シェアの変遷 /  消費者物価指数 /  食料自給率 /  人口問題 /  EPA・FTAについて /  まとめ
  2. 近年の出来事 <食の安全と安心>
    食品の安全に対する消費者の関心事項 /  異物混入 /  遺伝子組み換え作物の表示義務 (GMO) /  アレルゲンの表示義務 /  狂牛病(BSE) /  鳥インフルエンザ /  農薬等ポジティブリスト制度 /  表示偽装問題 /  まとめ


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1.日本の食品産業の特徴

市場規模の変遷

図1-01、棒グラフの加工食品のマーケットは高度経済成長の流れに乗り、1970年は5兆7,450億円の規模だったものが、80年度は16兆4,480億円となり、70年と比較して2.86倍に成長しました。その後も伸張し、87年にはついに20兆円を突破するなど目覚ましい成長を記録しています。

次に、青の折れ線で示した食料品輸入額は、70年から80年の10年間で9,210億円から3兆3,260億円と3.6倍に伸張して、90年には4兆5,720億円と増加しています。 さて、90年以降につきまして、両方のグラフについて言えることですが、微増に留まっています。これは、「バブル」と呼ばれている好景気が終結し、経済停滞期を迎えたこともありますが、後に触れます「デフレ」や「人口問題」によるものが大きいと思われます。

全体を見ますと、棒グラフと折れ線グラフの推移は、ほぼ同様の割合で増加していることから、輸入された食料品の多くが、日本のさまざまな加工食品の原材料として使用されている事が考えられます。


図1-01:食品市場の変遷 (株)日刊経済通信社調べ(輸入額は大蔵省「貿易統計」より)


業種別規模/シェアの変遷

図1-02、上は金額及び業種別内訳、下は業種別シェアを、10年刻みの推移で示しています。


図1-02:業種別規模/シェアの変遷 (株)日刊経済通信社調べ

初めに、大きくシェアを伸ばしている業種をご紹介します。

薄い水色の清涼飲料は、目まぐるしく主役が変わってきました。今から50年前の1950年代は、日本で売られている飲料の80%がラムネやサイダーといった炭酸飲料でした。その後、日本ではお馴染みとなっている「自動販売機」の急増とともに、果汁飲料・コカコーラ・缶コーヒーが登場し、市場は大きく成長しました。


図1-03:清涼飲料の品目別推移 全国清涼飲料工業会社調べ

近年の傾向は、緑茶やウーロン茶と言ったお茶とミネラルウオーターが増加し、炭酸飲料や果汁飲料は横ばいや減少傾向にあります。容器についても「ビンや缶」から「開け閉めができるペットボトル」や「コーヒー飲料に見られる広口の缶」への流れがあり、中身は同じでも、見た目や利便性で差別化をはかる商品も多くなってきました。寒い冬場向けの温めても変形しない「冬向けペットボトル飲料」も、技術の向上により市民権を得た代表的なジャンルとも言えます。

黄色の冷凍食品は、1960年代後半に本格的なタイプが誕生し、1980年代に大きくシェアを伸ばしました。この急激な増加の背景には、冷凍流通網の確立と家庭での冷凍冷蔵庫や電子レンジの普及した事があげられます。2000年の市場規模は7千4百億円となりました。


図1-04:冷凍食品の品目別推移 日刊経済通信社 日本冷凍食品協会調べ

図1-04は冷凍食品の品目別の推移を表したグラフです。ちなみに、一番上の調理食品と他の品目は数量が10倍以上離れています。 なお、調理食品の生産量の上位品目を紹介しますと、1位 コロッケ、2位 うどん、3位 ピラフや焼き飯、4位 カツ、5位 ハンバーグ となっていて、この5種類で全体の約4割を占めています。

次に1970年代以降、新規に参入してきた業種を見てみます。水色のレトルト食品は、図1-05のように1980年代から確認できますが、国内の生産は1968年のカレールーの発売によってスタートしました。以降、麻婆豆腐の素が定着し、近年は中華料理の素やパスタソース、東南アジア料理の素などバラエティ化が進んでいます。缶詰からの移行も市場の拡大の要因と見られています。簡便性とロングライフを最大のセールスポイントにしているため、単身者や若者、さらには高年齢者向けの提案も多くなって来ました。

紫色の健康食品産業は、1990年から確認できますが、消費者の健康志向の高まりや一般食品メーカーの新規参入などが市場の拡大に寄与しました。


図1-05:健康食品市場の推移 (健康産業新聞より)

健康食品市場は、ご覧の通り右肩上がりで成長し、2005年に1兆2850億円に達しましたが、2006年度に初めて前年割れとなりました。残留農薬ポジティブリスト制度の導入や一部製品での最大摂取量の設定、またテレビの健康番組の規制などがマイナスに働いたものと考えられます。

しかし、この様な状況でも、明らかな効果や効能を実証して厚生労働省に許可を受けた「特定保健用食品」いわゆる“トクホ”は、価格が高いながらも健康を求める消費者に受け入れられています。


図1-06:特定保健用食品の市場サイズ (日健栄協調べ)

図1-06が「特定保健用食品」のマークと、その市場規模を示したグラフです。今後も、メタボリック症候群の予防を対象とした製品が投入され、この市場は拡大していく事が見込まれています。

図1-07は2001年以降の食品産業の「業種別規模の変遷」を示したものです。ここ10年では市場規模に大きな変化は見られません。これは経済成長の停滞により消費者の購買意識が低下した事や人口問題などのさまざまな要因が考えられます。


図1-07:2001~2007業種別規模の変遷 (株)日刊経済通信社調べ


消費者物価指数

次からは、食品産業に関係する日本の現状を見て行きます。

図1-08の「消費者物価指数」は、私たちが日常購入する食料品、衣料品、電化製品、各種サービスなどの価格の動きを指数のかたちでわかりやすく表したものです。


図1-08:消費者物価指数:(財務省統計データより)

日本について見てみますと,1990年代まで続いた好景気である「バブル」の崩壊後,年々下降を続け、95年には比較可能な1971年以降初めてマイナスになりました。この様な状況のため、ここ数年日本では労働者の給料も上がりにくくなり、安い物を求める「デフレスパイラル」と言われる悪循環も指摘されました。2003年以降は、景気の回復と連動して消費者物価指数も上がってきていますが、他の先進国に比べ依然低い水準となっています。

食料自給率

図1-09はカロリーベースの食料自給率の推移です。食料自給率とは、国内の食料消費について国産でどの程度賄えるかを示す指標です。簡単に言えば、輸入も輸出もせずに賄える場合は自給率100%、半分は輸入に頼っている場合は50%となります。100%%を超えるアメリカとフランスは輸出国となります。

日本について見てみますと、1970年に60%あった自給率が2003年には40%に低下しています。また、直近の報告では、現在は40%を割り込んだとの事です。日本は人口に比べ農地が狭く平坦な土地が少ない事や海に囲まれているなど、国土条件でハンディキャップがあります。また、食の欧米化が進み肉類の需要が増加したことも自給率の低迷につながっています。世界173の国と地域の穀物自給率と比較すると、日本は130番目で、OECD加盟国の中では、30カ国中28番目となります。日本は世界の農産物輸入額の1割を占める輸入大国になっています。


図1-09:各国の食料自給率 (農林水産省 食料自給率データより)

図1-10は日本の主要品目の自給率の推移を示しております。1970年から比較しますと、主食の米は高い自給率を保っていますが、肉類や魚介類は低下しています。

鶏肉、豚肉、魚介類、牛肉は、海外からの輸入の増加により生産が伸び悩んでいます。魚介類の減少は、魚が取れなくなってきた事もありますが、ヨーロッパをはじめ、今まであまり水産資源を活用していなかった国での消費が多くなり、日本に来る量が減っている事もあります。こうした流れを受け、漁獲量に左右されず、安定収益が見込める養殖が毎年伸びています。大豆は3%、小麦は14%と、穀物はとても低い自給率のまま推移しているのが分ります。砂糖は自給率が上昇しています。また最近、鶏肉と牛肉が増加傾向にありますが、これは後程ふれます「鳥インフルエンザ」や「BSE」の発生により、国産品の割合が多くなった事を表しています。


図1-10:各種食料自給率の推移 (農林水産省 食料自給率データより)


人口問題

さて、近年までの日本の食品産業と自給率について見てきましたが、今後は人口問題により食品業界は転換期を迎えると考えられます。図1-11は人口を縦軸に、西暦を1950年から2050年までの100年間を横軸にとったグラフです。棒グラフは、水色が「0~19歳」、オレンジ色が「20~64歳」、紫が「65歳以上」と色分けされています。 経済成長期を支えてきた人口増加も90年には減速し、2000年からは停滞期に入っている事が分かります。


図1-11:日本の人口の推移 (財務省統計局)

今後については、国勢調査を基にした日本の将来人口予想によると、2006年に日本の人口は1億2,700万人でピークを迎え、それ以降は減少に転じると予想されています。同時にこの年に人口構成の5人に1人が65歳以上と高齢化も進みます。

人口の増減は出生率が1つの目安となります。2003年度の出生率は1.29と過去最低の数値でした。2006年は1.32と多少持ち直していますが、今のところ人口がプラスに転じる要素は見当たりません。人口問題は、労働力の不足をはじめ、少子高齢化、女性の社会進出、核家族化、子育て支援などのさまざまな要因とともに、食品産業にも大きな影響を与えると予想されます。

EPA・FTAについて

次に貿易交渉について触れてみたいと思います。WTO はWorld Trade Organization の略称で、151カ国が参加しています。日本を含め多くの国は、貿易のルールとして、この WTO による多国間交渉を柱として行ってきました。しかし、多くの国と一度に交渉をするこのやり方では、時間と労力がかかってしまい、時勢にあった貿易が難しい面もありました。こうしたなか、WTO を補完する第二の柱として、特定の国や地域との間で行なう貿易協定、「EPA・ FTA」がクローズアップされてきました。

EPA は Economic Partnership Agreement の略で「協定構成国間での、物やサービスの貿易自由化だけでなく、投資の自由化、人的交流の拡大、協力の促進など、幅広い分野を含む協定」で、FTA は Free Trade Agreement の略で「協定構成国のみを対象として、物やサービスの貿易自由化を行う協定」です。したがって、今後、日本とタイの2国間での貿易のルールを定める時に、人的交流が必要な場合は EPA を結ぶ必要があります。

世界の EPA や FTA の発効件数は、図1-12のように1990年以降急激に伸びています。WTO 中心で動いていた日本もこうした動きを受け、経済成長を続けている東アジアを中心に FTA を推し進める事となりました。日本は十数カ国と EPA の交渉を開始していますが、国会の承認を経て「発効」した協定は、現在までシンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイの5カ国となっています。


図1-12:世界の EPA・FTA 発効件数 (農林音水産省データ 2008.2.27 現在)


まとめ

「日本の食品産業の推移」、「消費者物価指数」、「自給率の推移」、「人口問題」そして「EPA」とご紹介致しましたが、これらの事から今後の食品産業について次のようなことが言えると思います。

  • 1つ目は、WTO と主体に貿易交渉を行なってきた日本ですが、近年は EPA や FTA の話題が多くなってきました。タイとは既に FTA を結んでいますが、対象品目が限られている為、今後見直しも必要になってくるでしょう。また日本は、ASEAN 全体、オーストラリア、ベトナム、インドなど多くの国や地域と交渉に入っています。日本は物だけではなく、人も不足していく事が予想させています。それぞれの国にメリットがある、いわゆる WIN-WIN となる EPA が増える事を期待しています。
  • 2つ目は、日本は他の先進国からみても自給率が非常に低く、特に米を除く穀物の伸びも期待できないことから、穀物を飼料とする家畜の増加も見込めない状態です。今後も海外からの輸入に多くを頼る事となりそうですが、日本の消費者はおそらく世界で一番安全と安心を食品に求めています。お互いの国でルールが違う場合などもあると思いますが、この安全と安心はベクトルを同じにして取り組まなければなりません。
  • 3つ目は、近年も健康維持や体質改善をアピールした健康志向食品は堅調です。キーワードは「おいしさと健康」です。この傾向は、世界でも指折りの長寿国と言われている日本のニーズにもマッチするため、さまざまなジャンルからの新規参入が考えられ、シェアは拡大するものと考えます。


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寄稿/掲載日:

2008/3/24

寄稿者紹介:

(現) 大日本明治製糖(株)相談役
(前) タイ国三菱商事社長



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