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日本食品産業の特徴と最近の動向 (2/2)寄稿:有川武俊(JTBF副会長、JTBF・FTA委員会委員長) 本稿は、2008年3月12日(水)、AOTSにて東アジア食品産業管理者研修で講義した内容をまとめたものです。 ページ インデックス
2.食の安全と安心食品の安全に対する消費者の関心事項2000年以降、食の安全に関し社会的関心を呼ぶ出来事が数々発生しました。図2-01のグラフは、食品の安全に対する消費者の関心事項の度合いを示しています。農薬や食品添加物についての関心が高い事がわかりますが、中にはBSEの原因物質の「プリオン」や「遺伝子組換え食品」など最近話題になったものも含まれています。
さてそれでは、どういう経緯で、消費者の食品に対する関心が高まったのかを、2000年以降の「食品に関わるできごと」と合わせて、いくつか紹介させて頂きます。そして我々食品に携わる企業が、どの様な対応をとったかなどにも触れたいと思います。 異物混入まず初めは、2000年にあった異物混入騒ぎについてです。食品産業において異物の混入は「クレームの代名詞」とも言える問題で、これまではあまりニュースになりませんでした。従来は、商品を購入した一般消費者が異物や商品の不備に気付いた時は、購入した店や製造した食品会社に問い合わせをしていました。 しかし、この時は大手乳業メーカーが関わった大きな事件の後だった事もあり、いつもと雰囲気が違いました。消費者がクレーム品を保健所などの公的機関やインターネット、新聞、テレビ局などのメディアに報告する現象が一気に高まりました。連日連夜の報道合戦により、対象製品のメーカーはもちろん、食品全体への不信がさらに拡大しました。メーカーでは、再発防止の対応として、工場設備の見直しや作業記録の徹底、さらに製造中のどこで商品に欠陥が生じたかを段階ごとにチェックするHACCP(ハセップ)方式の導入が進みました。
遺伝子組み換え食品の表示義務この表示制度は、改正JAS法に基づき、遺伝子組換え農作物とその加工食品について表示ルールが定められ、2001年4月からスタートしました。この遺伝子組み換え農作物は、Genetically Modified Organisms の頭文字をとり、一般的にGMOと呼ばれています。表示義務の対象は、現在、大豆、とうもろこし、ばれいしょ、なたね、綿実、アルファルファ、甜菜の7種類の農作物と、これらを原材料とした加工食品32食品群となり、豆腐や味噌といった身近な加工食品も表示義務の対象となりました。表示方法は、GMO不使用の場合は「遺伝子組み換え不使用」となり、この場合は一般的に「ノンGMO」と呼んでいます。 醤油やポテトフレーク加工品は表示対象ではありませんが、多くの商品は「遺伝子組み換え不使用」と、積極的に表示をしています。遺伝子組み換え作物についての最大の問題点は、新しい技術による歴史が浅い物だけに、人間に対して安全か?という事です。消費者意識に対応して、多くの食品メーカーや外食産業では「遺伝子組み換え作物を使用していない事」をアピールしています。 日本は外国からの輸入が多いので、IPハンドリングシステム(分別生産流通管理システム:Identity Preserved Handling System)を導入して、非遺伝子組み換え農産物を、外国の農場から日本の食品製造業者まで、生産流通の各段階で混入が起こらないよう管理する事になりました。また、この様にどこの産地の物かを追跡することをトレーサビリティと呼び、食品産業界では広く使われるキーワードとなりました。現在も情報公開を積極的にしてほしいという消費者のニーズを受けて、食品メーカーがGMOについて厳しい独自の基準を持つケースが多く、日本では遺伝子組換え食品の利用は積極的ではありません。
アレルゲンの表示義務次にアレルゲンの表示義務についてですが、こちらは遺伝子組み換え表示義務の翌年の2002年4月からスタートしました。 食物アレルギーを引き起こすことが明らかになった食品のうち、「小麦・そば・卵・乳・落花生」の5品目の原材料表示を義務付けました。また「あわび, イカ, イクラ, エビ, オレンジ, カニ, キウイフルーツ, 牛肉, ピーナッツ, サケ, サバ, 大豆, 鶏肉, 豚肉, きのこ, モモ, 山芋, りんご, ゼラチン、バナナ」の20品目は表示を推奨するものになっています。ただし例外として、数ppmレベル以下の含有量で、その事を証明できた場合は、表示が免除されますが、微量に使用する酵素製剤や製造工程で完全に除去される助剤などを除いて、ほとんどのものが表示の対象となりました。 アレルゲン物質は食品添加物などとは異なり、一般の加工食品への表示義務がなかったため、少量含んでいる該当物質を表示していなかった事が多く、そのため食品メーカーでは購入原料の再調査が一斉に行なわれ、一時は原材料の調査に1ヶ月以上かかるという異常な事態も招きました。これは食物アレルギー体質者が知らずに飲食した際の死亡例などがあるため、販売元の業者も慎重に対応せざるを得なかったからです。こうして、先のGMO調査との相乗効果もあり食品業界の情報の公開が一気に進みました。また2008年2月に、調査によってアレルギーの発症件数が多かった「えび」を「かに」も含めて表示を義務付ける事が決まりました。
狂牛病(BSE)次に、一般的にBSEと呼ばれている狂牛病についてご報告します。BSEとは「牛海綿状脳症(Bovine spongiform encephalopathy)」の略で、2001年には日本で初めて確認され、2003年には牛肉の輸入国のカナダ、アメリカでも発症が確認されました。牛や羊由来の飼料を与えたとされる牛での発症例が多く、原因物質は異常プリオンと言われています。また、人にも感染し、イギリスでは、180人以上の死者が出ています。 BSEは、イギリスで1986年に初めて確認され、そのイギリスを中心としてヨーロッパ各国に急増しました。この症状が進むと牛は立てなくなり、やがて死に至ります。座り込み、よだれを垂らす牛の映像が日本で流れた時は、人々の間に衝撃が走りました。発生件数は、イギリスが圧倒的に多く、日本も現在まで34件が確認されています。
このBSEで最も恐れていることは、人間への感染です。牛からの異常プリオンが人にうつったとされる「変異型クロイツフェルト・ヤコブ病」は、知覚障害や歩行困難、筋肉の麻痺などを引き起こす難病で、発症から死亡までの平均期間は約1年と非常に短い難病です。 人間への感染を防ぐために、国際獣疫事務局(OIE)では、異常プリオンが多く蓄積される「特定危険部位」を発表し、各国に食品に用いないよう呼びかけています。図2-06で青く塗られている部分は、特定危険部位にあたる部分です。舌とほほ肉を除く頭部、せきずい、小腸の一部が該当します。加工食品の原材料調査などでも、牛のこれらの部位を使用していない証明を求められる事が多くなりました。また食肉だけではなく、「ビーフエキス」や「ゼラチン」など、多くの牛由来の加工品も調査の対象となります。
BSEは食品産業にも大きな影響を与えました。図2-07は、当時の牛肉の産地の割合を表しています。日本は牛肉についても半数以上を輸入に頼っていて、オーストラリアとアメリカが2大輸入元でした。しかし、2003年にアメリカでBSEが確認された時は、すぐにアメリカ牛肉の輸入をストップしました。理由は、日本は2001年に国内でBSEが発生した時から、世界で一番安全な基準となる「全頭検査」を実施していましたが、当時のアメリカでの検査は、日本の基準を大きく下回っているためでした。このために、アメリカの牛肉輸出業者はもちろんの事、日本でアメリカ産の牛肉を使用していた食品産業も長期間にわたり、大きな打撃を受けました。なお、現在はアメリカからも牛肉は輸入されています。
鳥インフルエンザ次は、現在もアジアを中心に世界各地で発生している「鳥インフルエンザ」についてお話しします。いくつかのタイプの鳥インフルエンザウイルスが原因で、鳥の病気としては非常に死亡率が高く、主に飼育されている鶏、アヒル、七面鳥、うずら等が感染する伝染病です。症状は、首曲がりなどの神経症状や呼吸器症状が見られます。この鳥インフルエンザが近年注目をされたのは、1997年から98年にかけて香港で流行した際に、初めて人への感染が確認されてからです。 現在、鳥インフルエンザが確認された場合、その施設はもちろん、半径数十キロ以内の鶏の出荷停止が行われます。感染者拡大防止のためはもちろんですが、今後考えられるウイルスの拡大を未然に防ぐためでもあります。なお、ウイルスに感染している鶏などの家禽から人への感染は確認済みですが、その肉や卵を食べて感染したことは世界的にも報告されていません。もし肉にウイルスが残っていても、75度以上で1分間熱を加えれば死滅するため、加熱調理をすれば問題はありません。 図2-08の地図は、インフルエンザの発生地域と感染レベルの状況を表しています。毎年範囲が拡大していて、濃い赤色の地域では人への感染が確認されています。また、黄色いワクに主な感染地の情報を載せていますが、感染した場合の致死率が非常に高いことがわかります。インドネシアでは、実に80%を超えています。
鳥インフルエンザウイルスH5N1型の様に致死率の強いウイルスが、人から人へうつりやすく「変異」した場合、「パンデミック」と呼ばれる大流行を引き起こす可能性があります。過去の例では、1918年にスペインのマルセイユで流行した非常に症状が重い風邪は、世界各国に広がり全世界で死者4,000万人を記録したと言われています。当時の世界人口は12億人と推定されるので、世界で3%以上の人が死亡した事になります。WTOによるパンデミックのシミュレーションでは、全世界で200~740万人の死亡がでると推計していますが、スペイン風邪のデータから推計すれば、1億人を超える数字がでてきます。 図2-09は、当時の鶏肉の産地の割合を表しています。2002年度は、国産が120万6千トン、輸入が52.万4千トンとなっています。輸入の内訳は、下のグラフのように、タイが34.9%、ブラジルが32.0%、中国が22.7%、その他がアメリカなどで9.5%となっていました。2004年度は、1月にタイと中国で鶏インフルエンザが発生した事により輸入停止をしたため、タイと中国産の鶏肉はスーパーに並びませんでした。さらに、国内で鳥インフルエンザが確認されたこともあり、鶏肉全体の消費量も減少しました。なお、現在も日本は、鳥インフルエンザ感染国からは、生肉の輸入はしていません。
農薬等ポジティブリスト制度2006年5月29日、食品中に残留する農薬や飼料添加物及び動物用医薬品(いわゆる農薬等)について、一定量を超えて農薬等が残留する食品の販売等を原則禁止するという、新しい制度 “農薬等ポジティブリスト制度” が施行されました。従来の制度と大きく変わった事には、残留基準を定めていなかった農薬などに対して、一律基準として0.01ppmを定めたところです。EUやドイツもこの基準を採用していますが、ニュージーランドやカナダの0.1~0.01ppmと比べると厳しい基準となっています。
この法改正により、今まで日本で受け入れていた野菜や果物やその加工品が、港や空港の検疫所でのモニタリング検査において一律基準0.01ppm以上の農薬等が検出され「食品衛生法違反」となるケースが多くなり、特に海外からの野菜の輸入が激減しました。この制度の導入に伴い、輸入野菜や農産品を含む加工食品を見る目が厳しくなりました。大手のスーパーマーケットなどでは、契約栽培をしている農家から仕入れた野菜を、生産者の顔写真をつけて販売し安全性をアピールする動きが見られる様になりました。 国内の農作物の生産者サイドを見てみると、この制度の導入前から主に2つの点を中心に指導が行なわれてきました。1つめは農薬の使用基準をきちんと守れば残留基準を超えないので、適用作物・使用量又は濃度・使用時期・散布する回数を徹底すること、2つめは農薬散布の際に周囲の栽培地に広がること(ドリフト)を軽減する対策です。自分の農場では使用していないのに、隣で農薬を風の強い日に大量に散布すればその被害をこうむってしまうし、その逆も考えられるからです。 表示偽装問題近年のニュースとして最後になりますが、昨年2007年は老舗の菓子メーカーや肉加工品メーカーなど、さまざまな加工食品の表示で偽装が相次ぎ、社会問題となりました。高級なイメージを持っている産地の物と偽ったり、賞味期限の改ざんや、中には牛肉を使用していないのに牛肉を使用していると表示していたものまでありました。偽装が発覚した企業は営業停止となり、農林水産省などのもと、不適正な表示の改善や再発防止の指導を受けました。一般消費者の関心は、この偽装問題に集中し、2007年を漢字一文字で表す恒例行事で「偽」が選ばれたほどでした。 この消費者不信を払拭する為に、食品企業では社員に対して「コンプライアンス」を徹底させて、この様な事が起こさないための確認をしました。また、事業を通じて地域や社会に貢献する旨の「CSR」の言葉も頻繁に聞かれる様になりました。
まとめこれまでお話しました「GMO」「アレルゲンの表示義務」「BSE」「鳥インフルエンザ」など、さまざまな出来事を経験した日本の食品産業は、次の様なトレンドに傾いていくと思われます。 この「安全」「安心」を与える手法としては次の3つの事が挙げられます。
これらの事を実践して、初めて消費者に対して安全と安心を提供できると考えられます。日本経済は近年の低迷から再び成長期に向かっています。タイの農産物や加工食品も、私たちが求めている「安全」と「安心」の条件をクリアしていれば、間違いなく受け入れます。日タイ両国の食を通じた友好な経済交流が今後も大きく発展する事を期待しています。
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