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熾烈な競争時代に入ったモノづくり=タイ国=

寄稿:佐藤一朗(JTBF会員、SME委員会委員)

 

本稿は、2003年3月(財)アジアクラブと大阪外国語大学との共催で行ったセミナー「中国の膨張とアジア諸国」で行った講演内容をまとめたものである。テーマは、「中国の台頭にタイはどのように対応するか」。半分は日本人、残り半分がタイ人の立場に立っていろいろ考えてみたつもりである。講演から2年余経過しているが、現実はほぼ本稿に沿って加速している。若干の数値を除いて、あえて変更修正を加えなかった。

台頭する中国

中国に対する見方

前アジアクラブ理事長の堺屋太一氏が最近書かれた本「中国大活用」では、中国に対する3つの見方があると指摘されている。

  • 第1に、中国は13億人の大市場だという点。この大市場を無視するのは勿体ないので、せいぜい頑張ってモノを売る方がいいというもの。たぶん2008年北京オリンピック、2010年上海万博までは少なくとも7%前後の経済成長を実現するであろう。
  • 第2は、中国脅威論。現時点では中国に関する見方の殆どを占めているのがこの中国脅威論。DVDプレーヤー、携帯電話、デスクトッブパソコン、カラーテレビなどの生産は世界一。これからも安い工業製品を大量に生産・輸出し、近い将来は全世界の工業製品市場を席巻するのではないかとも思えるほど。どの国も国内・輸出市場共に中国に奪われるという脅威がある。
  • 第3は、中国挫折論。所得格差の拡大、沿海部・内陸部の地域間格差、業種間格差が拡大する一方で、国営企業の抱える諸問題がある。さらには、一党独裁の政治体制などの問題もある。これが挫折を生むという見方。

こうした3つの見方と平行し、今後の中国が進む3つの見方も紹介されている。

  • 第1は、「雁行」説。1980年代後半に“アジアは世界の成長センター"と呼ばれた時期があり、その先頭を飛んでいるのは、当然のことながら日本だった。その後に続くのがアジアNIES(韓国、台湾、香港、シンガポール)で、さらにその後にマレーシアやタイ、そしてインドネシアとフィリピンたった。その頃、中国は大きく離されており話題にもならなかった。
  • ところが最近、その中国は韓国の横に並んできている。もしかすると日本を追い越し、雁行の先頭に立つかも知れない。これが第2の「蛙跳び」説。蛙跳び説はすなわち中国脅威論である。雁行説の先頭だった日本がモタモタしていると、中国が一気に日本を飛び越えてしまうというのが蛙跳び説。これに共鳴する人もかなり多い。
  • 第3は、「蝶にはばたく」説。蛹から蝶が羽化するような大変化がおこる、つまり工業社会を経ないで、一気にサービス産業社会に移行するだろうと、という見方。

これだけ多様な見方があるということは、もはや中国の動向を度外視できなくなっている証左であろう。また、中国脅威論と蛙跳び説が大方の見方と思われる。

WTO加盟

中国は2001年12月にWTO加盟を果たした。それによる影響は何であろうか。関志雄氏(経済産業研究所上席研究員)が、次のように分析しておられる。

  • 中国にとってのマイナス面
    これまで貿易面で設けられていた保護規定を撤廃あるいは緩和すれば、不効率な経営をしていた国営企業、農業、弱小メーカーなどが倒産し、大量の失業者が発生するだろう。中国はそうしたマイナス面を承知の上でWTOに加盟した。
  • プラス面
    海外企業が資金、技術、マネジメント・ノウハウを投入する。そのことが輸出や輸入を拡大し、経済成長に寄与することになる。また、中国の工業製品が国内はもとより海外市場でも競争力を発揮することができるようになる。
  • また、
    中国のWTO加盟は日本のように中国と補完関係にある国の場合、中国の交易条件の悪化が日本の交易条件の改善になる。またタイなどのように中国と競合する国の場合、タイの交易条件が悪化し中国製品が大量に入ってくる。

最近読んだ本では、「補完関係にある国でも競合関係が発生する」、「競合関係にある国は補完関係も発生している」とも指摘している。そういう複雑なマイナス面とプラス面を持ち合わせている。

「組み合わせ型」と「摺り合わせ型」

筆者は東大の藤本隆宏教授が主催されている研究会に入っているが、その研究会でいつも取り上げられるテーマの一つがこれである。中国は組み合わせ型工業製品が得意と見られている。

  • 組み合わせ型とは、中問財や部品を集め、それを加工・組み立てすることによって工業製品ができる。これに相当するのが自転車などの軽工業品。最近は普及型の50ccオートバイや家電製品、パソコンも組み合わせ型商品。
  • 自動車のようにかなりの高度な技術を要するものは、摺り合わせ型の工業製品。

こういう分類をしている。中国は組み合わせ型の工業製品が得意。しかし、コピー・モデル、組み合わせ改造モデル、摺り合わせ改造モデルなど、現在はいろいろなものが混在している。ただ、日進月歩の技術に裏付けられた新製品の開発はまだとても日本に追いつけない。雁行説でいくと、日本は依然トッブを走っている。

中国脅威論

ところが、いまや中国は韓国に追いつき追い越して、日本の真後ろについて飛んでいるのかも知れないと言われている。中国は核兵器、大陸間弾道弾、原潜もつくってる。もうすぐ有人飛行の宇宙船も打ち上げる技術がある(周知のごとくその後成功している)。製鉄産業などの重工業もASEANの国よりも優位な状態で有している。技術も潜在力もある。その半分の技術者を先端産業や自動車産業に廻せば、容易に実現できるはず。かつて、日本が戦艦大和を建造した1935頃、日本の自動車業界はGMとフォードの米国メーカーが日本市場の殆どを抑え、日本は手づくりの自動車をつくっていたに過ぎなかった。完全にGMとフォードに抑えられていた一方で、当時世界No.1の戦艦大和を建造した。こういう潜在力の話もあるので、うかうかと組み合わせ型か摺り合わせ型かとばかりは言っておられない。

従って、筆者は中国に対しては脅威論の方に立っている。昨今目にする報道記事も、それを裏付ける。

  • 中国の対外経済協力省次官が自ら団長となり150社の中国メーカーを引き連れてアブダビ(アラプ首長国連邦)を訪問し、小型ピックアップトラック、オートバイ、家電製品、パソコン、雑貨までドーンと展示するという力の入れ方。
  • 義鳥市に設けられた巨大な卸売りセンター、あらゆる商品が集まり、世界中からバイヤーが殺到している。ボールペン1本が3円、デイバックが135円。中国の卸売市場にて135円で買い付けてきて、日本で1000円で売るとソロバンは十分に合う。そういう巨大な卸売りセンターができている。
  • メキシコにも中国製の安い靴が大量に入ってきて、メキシコの安手の靴メーカーはほとんど倒産、1万5000人の従業員が失業したという。それで、メキシコでは「中国の靴は出て行け」と大規模なデモをやっている。
  • メキシコ北端の輸出保税加工区のマキラドーラでは米国企業も部品を生産して米国へ輸出していたが、これもどんどん中国ヘシフト。まさに“マキラドーラからの大脱出"と言われている。
  • 中国の最大家電メーカーのハイアール(海爾)は米国にも工場をつくり、本社ビルも購入している。なぜ中国でNo.1の地位を確保できているのか。それは24時間体制のアフターサービスと、このアフターサービスの背後にある労務管理。例えば、お客から「欠陥商品ではないか」と品質のクレームがついた場合、その欠陥商品の該当部品を設計したエンジニアが顔写真入りで壁に貼ってあり、そのエンジニアの成績表に「この人は部品の設計にドジを踏んで、これだけ会社が被害を受けた」と書き込まれた上に、給料もカットされる。あるいは、24時間体制でお客からの苦情電話の応答をするオペレーターの応対をモニターする監督がいる。その監督がモニターをチェックし、オペレーターを全員集め、応答が不味かった人のケースを全員でテープを聞きながら勉強し直している。また、オペレーターの顔写真入りの成績表も壁に貼ってあり、「このオペレーターは対応が悪かった云々」と書き込まれていたりする。まさに能力主義というか成果主義というか、あるいは信賞必罰というか。こういうことは、その社長が共産党委員であり、党大会にも出席するほどの身分を持っている中国企業だからこそできるのだと思う。これを日本企業が中国でやれるかどうか。もし、やれば大変なことになるであろう。少なくとも私の専門分野であるタイではこういうことはできない。中国ではそこまでの労務管理を実践し、この労務管理は品質管理にも繋がり、アフターサービスにまで繋がるようにやっている。

こういう、中国脅威論が高まるのも仕方がないと思っている。1988年ソウル・オリンピックが開催された当時、韓国の経済成長は目覚ましいものがあり、「漢江の奇跡」と言われていた。ところがあの当時韓国脅威論は聞かれなかったと思う。韓国にはなくて、中国には脅威論が騒がれる何かがある。

タイの対応

では、そうした中国の現状に対して、タイはどのように対応すればいいのだろうか。

経済成長の軌跡

タイは1960年代、70年代、80年代と平均7%の経済成長を誇り、“ASEANの経済優等生"と呼ばれていた。とくに、77年から86年にかけては労働集約型の軽工業が成長した。例えば、繊維、衣類、靴、プラスチック製品、玩具、家具、ぬいぐるみ、造花、宝石・宝飾品、缶詰、農水産加工品など。これらの製品が輸出の主力となり経済成長に大きく貢献した。また、87年から90年代前半にかけて円高を背景にした日本企業の大量進出、つまり集中豪雨的にタイに直接投資を集中させた。製造業を中心とする日本企業のタイ進出は輸出増加にもつながった。こうした要因で、タイは88年から90年にかけての3年問は経済成長率が平均12%と2桁成長を遂げることができた。直接投資が激増し、輸出も毎年20~30%増というタイ・ブームを呼んだが、96年頃から労働集約型の軽工業品が中国、インドネシア、ベトナムの追い上げにより、タイからの輸出も減り始めた。

バーツ危機

そうした矢先、米国の投機筋であるヘッジファンドがバーツに対してアタックをかけ、これが原因となってアジア通貨危機が発生、97年7月のことである。完全にタイのバブル経済は崩壊。しかし、2002年には何とかバーツ危機から立ち直り、経済成長率5%前後まで立ち直ってきている。

中国の台頭

翻ってみると、第2次大戦後にタイが直面した経済危機というのは70年代の第1次・第2次石油危機、社会主義化したインドシナ3国による“タイのドミノ危機"、そして97年アジア通貨危機の3回。ところが、最近は中国の台頭という異質の間題に直面している。一体どうすればいいのかと誰しもが思っている。

政府の対応

タイ政府が中国脅威論を全面に打ち出し、産業界を叱咤激励するといった形で角が立つようなやり方はしないと思う。タイの特徴は柔軟な外交政策であり、この点においては日本よりも遥かに上手。この柔軟な外交政策を用いて中国の台頭によるマイナス面をできるだけ少なくし、可能な限りプラス面を大きく、しかも自国に有利になるように展開するものと確信している。そういう戦略を志向しながらも、他方では中国の台頭を意識して世界市場こおけるタイの競争力向上のためにタイ政府・首相府のもとに“競争力向上委員会"を設置し、以下のような政策を内定している。

  • 第1に重点産業を絞り込んで育成し、政府も支援するというもの。例えば、農業、食品、繊維、衣類、自動車・部品、観光、ファッションなど。
  • 第2に、引き続き外資導入に努力すること。その対象は電機・電子、サポーテイング・インダストリー。
  • 第3に、シンガボールの向こうを張って、管理部門のハブ機能をバンコクに誘致すること。
  • 第4に、ハブ空港を新設し、インフラを整備すること。

このような形で進んでいる競争カ向上委員会のことは日本にも届いている。在東京のタイ大使館で開催されている日本・タイ・ビジネスフォーラムはタイに対するアドバイザーグループの集まりであるが、タイの競争力向上に対する意見を遠慮なく提案している。つまり、タイ自身も中国の台頭を意識していろいろ対抗策を考えている最中だと言える。

産業界の対応

では、タイの産業界としては具体的にどうするか。中国は13億人の大市場でもあり、WTO加盟によって中国市場へのアクセスが良くなったのは確か。その結果、タイとしては中国を輸出市場として大いに開拓する努力が必要だと思っている。現在でも農産物、工業製品用中間材・部品が中国にかなり輸出されている。今後、どういう産業分野の製品が中国市場を開拓できるか分からないが、13億人の大市場をめがけてタイは努力するであろう。

  • 労働集約型の製品
    については、以前から中国、インドネシア、べトナム追いかけてられている。そのために、かなりの部分が競合する状況になっている。タイの労働集約型の製品分野は中国の台頭によって非常に難しくなってきている。これからは生産性向上、あるいは中国製品との差別化、高付加価値化、生産コスト低減などを考えなければならないであろう。“言うは易く、行うは難し”で、危ないと思ったら早めに転業する方が賢明。ジタバタしても始まらない。実は、生き残りのためにこういうことをやっているのは中国系タイ人、皆賢い人たちで生き残りのために何か考えると思われる。
  • タイにおける家電
    日系の製品が主流。ただし、洗濯機、掃除機、冷蔵庫の3分野は韓国製品に追い上げられている状況。中国製品が云々と言うよりは、いかに韓国製品と張り合うかで忙しい。
  • 少なくとも海外の市場で日本の家電製品同士が競合することは少ない。例えば、松下電器グループが中国つくったテレビとタイでつくったテレビがタイ市場でかち合うということはない。これは日本の本社が販路を交通整理するから。あの製品はこの国に輸出し、これはあの国に持っていく、云々。これは松下電器でもソニーでも同じである。
  • ところが、日本対韓国あるいは日本対中国などという範疇で考えた場合には、製品の競合が起こる。今後、タイで予想されるのは中国家電メーカーの進出だと思う。しかも、廉価製品ではなく、ハイテク製品。これは蛙跳び説の代表格。DVDプレーヤー、デスクトツブバソコン、携帯電話など。とくに、中国はこのDVDプレーヤーとデスクトップパソコンは世界一の生産量を誇っている。カラーテレビ生産量も世界一。これから先も家電分野での中国の脅威は高まると思う。
  • タイの輸出品目の4番目にガーメント
    がある。いわゆる衣類。タイ政府としてはガーメントは力を入れて育成し支援していきたいアイテムの一つ。世界の流行を追求し、デザインの研究を深め、サブライ・チェーン・マネジメントを充実させ、ITによる経営管理を実践しなければならない。ただ、どうもタイ人は調査や研究があまり得意ではない。この辺が心配。従って、タイ人の得意とする産業分野でもっと勉強して上手な管理を行うようにしなければいけない。そうしないとタイが得意とするはずのものまで中国に持って行かれてしまう。
  • 自動車
    はタイの場合は心配ない。タイの自動車市場は通貨危機前の96年の国内販売が59万台、危機後、98年には14万台にまで落ち込んだが、2002年には41万台まで回復、輸出17万台と合わせて、生産台数は96年のピーク時のレベルまで戻った。今後、国内市場の漸増と輸出の大幅増によって2006年には年産120万台の生産拠点として確固たるものになっているであろう。それは日本企業が1トン・ピックアッブトラック生産をタイにシフトする動きがますます強まっていることからも分かる。例えば、トヨタ自動車、いすず自動車、三菱自動車工業、マツダなどはタイに1トン・ピックアッブの生産体制を敷いている。部品メーカーの集積度も高く、グローバルな視野からみてもタイは自動車の一大生産拠点としての位置づけられる。国産化率もトヨタのアジアカーは80%、1トン・ピックアッブトラックの国産化率は85%にも達している。日本の自動車メーカーの力の入れ方には並々ならぬものがある。(2005年国内販売69万台、輸出50万台が予測されており、タイからの品目別輸出商品第一位に浮上見込み。)
  • 韓国車はタイではどのくらい売れているのだろうか。韓国車は起亜が3500台程度(2004年)しか売れていない。これでは全然問題ではない。つまり、現在タイの自動車市場では韓国車でさえ全く僅かな台数で、ましてや中国車が入ってくるのは当分の間、考えられない。個人的に少々気になるのは、中国市場で最大の生産台数、販売量を誇っている独フォルクスワーゲン・グループの存在。中国の乗用車生産台数230万台(2004年)のうち上海/一汽フォルクスワーゲンが60万台生産している。フォルクスワーゲン・グルーブはタイに生産拠点がないが、いつの日か中国工場でつくった自動車(例えば、サンタナ、パサート、ポロなど)をタイや日本に輸出するのではないかと心配している。ここ2~3年という問題ではないが、いずれそうなるような気がする。

タイ企業への提言

結語として、普通に聞けばありきたりのことであるが、タイ企業は業種にかかわらず次のレベルでの企業努力が必要であろう。

  • 第1に、“品質向上"、“生産性向上"、“コスト低滅"。
  • 第2は、タイ国内市場・海外市場の調査・研究。世界経済の研究、世界の流行、顧客二一ズの調査・研究といった地道な努力が必要。先述したように、タイ人はこの地道な努力が極めて不得手、これをしっかりやってもらわなければ困る。
  • 第3は、日本的生産方式の導入。既に導入している企業もある。例えば、一番大手のサイアム・セメント、口を開けば、「合理化」とか「改善」とか言っている。そういう企業もあれば、全く参考にしていない企業もある。サプライ・チェーン・マネジメントやIT経営管理の導入をしっかりやる必要がある。もっと日本に果物、食品、農水産加工品を輸出したいと考えているなら、何と言っても衛生管理面をより強化しなければならない。
  • さらに重要なのは、従業員の人材育成(教育・技術研修)、これが第4。従業員の定着性をいかに向上させるかという対策と工夫のための人事労務管理面が肝要。これは本当に大事なこと。例えば、タイ・トヨタの場合は2005年現在月産3万台規模。日本人は本社の事務・営業、工場スタッフ全部合わせても約50人。一方、タイ人は約9800人。つまり、いくら日本人が朝から晩まで工場内を走り回ったところで、3万台の自動車がつくれるわけがない。9800人のタイ人従業員がしっかり働いているからつくれるのである。しかも、係長以上部長までは全部タイ人。また執行役員、取締役、副会長にもタイ人がいる。こういう環境でしっかり定着しながら仕事をしているので、3万台の自動車が生産できている。日本からやってきたスタッフが、「タイでつくる自動車の品質は日本と同じだ」との太鼓判を押しているわけである。そういう自動車がタイでつくれる、。その結果、タイから海外に輸出できる、これは全てしっかり者のタイ人が頑張ってくれているからできること。
  • いかにタイ人にしっかり頑張ってもらえるか。この命題は日系企業だけではなく、現地企業や欧米企業にとっても同じ。そのためには人材育成と従業員の人事労務管理、定着性の向上が重要。定着性を向上させなければ、日本的モノづくりの導入もなかなか上手くいかない。非常に大事な点である。
  • 第5に、労使協調の造成。日本企業も一生懸命やっているが、タイのローカル企業は労使協調を造成していくことはまだ不得手だと思う。従って、この関係をきちっと築き上げなければならない。
  • 第6に、タイ国内、輸出先市場における販売、アフターサービス網の充実強化。
  • 第7に、品質管理を高め、ISO9000を取得すること。

こうした企業努力が求められる。中国脅威論を恐れて落ち込まず、むしろチャンスと捉えて対応すべき。この辺はタイ人の「マイペンライ(気にしなくていい、いいじゃないの)」精神でもって中国市場を負けずに開拓すべき。中国がWTOに加盟しようとどうしようと、マイペンライ精神でもっと前向きに進む方が良い。しかも、中国政府はFTA(自由貿易協定)締結交渉を始めようということなので、トロピカルフルーツや野菜を積極的に中国に売るために話し合えばいい。工業製品用中間財も売れるものは中国市場に持っていけば良い。

日系企業にとっては中国のWTO加盟やFTAの進展という問題をよく分析・把握し、国別の生産・販売の棲み分けを行うグローバル戦略で臨まなければならない。分かりやすく言えば、相互の補完関係を研究し、生産品目と生産拠点の集約による競争力の向上を図ること。家電メーカーは既に着手している。一方、タイ政府は、先述のように、まず各業界の要望・提言に耳を傾けること。タイはASEAN諸国の中でも一番実行度が高いが、もっとやってほしい。私がタイに駐在していた頃、工業次官から「自動車政策について意見を聞きたい」と電話がかかってくる。私はすぐに走って行き、次官に「ああだ、こうだ」と意見や要望・提案を直接した。こういう雰囲気は既に20年ほど前からあった。こういう点で、タイは誇れると思う。これからもこういうことを一所懸命にやってもらいたい。

ASEANの中でAFTAについて総論賛成、各論反対という側面が根強く残っているのであれば、早急に話し合って完全な合意を取り付けたい。さもないと、台頭する中国への対応ができない。いろいろ細かいこともあるだろうが、一刻も早く、AFTAの完全合意を実現してもらいたいと願っている。通関や船積みの時間短縮や合理化を図らないと、輸出の足を引っ張る、早く改善してもらいたい。道路網などのインフラ整備も急がれる。輸出用製品に組み込む部品を輸入した際には先に輸入税を払い、輸出後に戻してもらうというルールがあるが、これがいつになったら戻ってくるか分からない状態。6ヵ月もかかるのであれば困る、早く税を戻してもらいたいと思っている企業は多いはず。プレス型の素材である鉄鋼、さらには鋼鉄や銅などの素材は輸入税ゼロということを先取りでやってもらいたい。こうしたことは大いにタイの輸出促進につながるであろう。



寄稿/掲載日:

2005/6/02

寄稿者紹介:

1953年、大阪外語大・タイ語学科卒業。トヨタ自動車に入社。
トヨタ自動車では一貫して海外営業を担当。
その間、タイには2回、通算10年間駐在。2回目の駐在ではタイ・トヨタ社長を務める。
1987年、タイ国王より勲三等王冠章を受章する。
1998年に現役を引退。
引退の少し前から大学の講師を8年、テーマは『国際経営論』、[海外労務管理論]など。



 在京タイ王国大使館 /  タイ国投資委員会 /  タイ国政府観光庁 /  日タイ経済協力協会 /  海外技術者研修協会 /  盤谷日本人商工会議所 /  (社)日本貿易会 /