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洪水被災地視察記

寄稿:JTBF 会員:本村博志


JTBF は例年タイ・ミッションを派遣しているが、今年(2012年)は、1月15日~19日の日程で実施された。

今回の訪タイミッションの目玉ポイントとして、「洪水被害地の現状視察」を加えた。1月19日一日を費やし、パインハーストゴルフ場、日本人町、バンパイン離宮、ワット・プラ・マハタート寺院、ワット・ヤイ・チャイ・モンコン寺院、ロジャナ並びにナワナコン工業団地、ミネベア工場を視察した。 視察に参加したメンバーは、筆者のほか JTBF 会員5名であった(吉川、水谷、加藤、指宿、米田--敬称略)。

  1. メンバー全員が、1990年台半ば、タイ国への「人・モノ・金」が滔々として流れ込んだ時代に勤務している。タイ国が、特に日本よりの直接投資で隆盛を極めた時期に、今回被害に遭ったナワナコン・ロジャナ等のチャオプラヤ河沿いの工業団地の隆盛ぶりを目の当たりにしている経験があるだけに、今回の被害の甚大さを直接、目前にして、涙が出てくるのを抑えられなかったのは、小生だけではあるまい。
  2. あの整備しつくされた、チリひとつ落ちていない近代的な事務棟・工場が、今、働く従業員の姿は見当たらず、閑散として、ガラスは破損したまま。会社の名前が入ったプレートは赤錆び、歯が抜けたように看板の文字が落ち、防水壁にしようとした鉄板壁は、赤く錆びついている。工場の敷地内や通りに、所狭しと積み上げられているゴミの山。唯一、ロジャナのホンダの工場は、4月の操業再開を目指して人気があり、正面玄関入口のみ、新しく張り替えられた緑の芝生が、折からの陽光に映えているのが、却って痛々しい。ナワナコン工業団地のかなりの部分は、「ゴーストタウン化」していると言っても過言ではない。これがあの隆盛を極めた工業団地とはとても信じられない、いや信じたくない気持ちで溢れかえる。
  3. JETROバンコク事務所が2月3日公表したアンケート調査によれば、洪水再発の恐れを危惧する被災企業が、リスク分散に敏感になっていることが見て取れる。 今回被害にあったチャオプラヤ河近辺の7工業団地が浸水し、日系企業約450社が被災、そのうちの50社がアンケートに回答している。 約4割の企業が「規模縮小」し、外部委託、他の海外拠点で代替生産するとしている。(6割弱が現状維持) この数字の意味するところは含蓄ある。サプライチェーンの関係もあり、撤退は殆どの会社で考えてはいないが、再度の被災もあり得べく、相当数の企業が「規模の縮小」を検討している。これは雇用にも影響を与えるであろう。 再度このような被害をもたらせない様、政府としても最大限の施策を早急に検討・実行の要あろう。これまでの当国への直接投資額が最大の日本の多くの企業は、最早、他国へ生産拠点を移転することは考えておらず、「洪水リスクを如何にして分散し低下せしめるか」、を真剣に具体的に検討することが、当国でのビジネス継続のため必須となっていることを今回の洪水被害で実感していることがこのアンケート結果から、見て取れる。
  4. ロジャナ、ナワナコンでの被害の甚大さを肌で感じた後、当視察グループは、ナワナコン工業団地のほぼ隣に位置している、ミネベア工場を視察。現地社長であり、本社執行役員東南アジア総支配人の上原氏より懇切丁寧な説明を受けた。 結論的に言えば、当工場は、何らの洪水被害も受けなかったのである。80万㎡の敷地で操業する同社は、約1万名の従業員を抱える大工場である。 2011年の気候、特にタイ北部の降雨量が平年に比べ142%と異常に多いことで、上原氏の頭の中で第一警報が鳴った。そして10月4日にサハラタナコン工業団地が水没の恐れあり、との報に接するや即時に、いかなるコストをかけても工場周囲4.5KMに及ぶ防水堤を張り巡らし、何としても洪水の被害を阻止するという決意の下、当該地域が水没する10月18日までに、手際よくバックホー10台、トラック100台も動員出来、全従業員の協力を得て、自らの団地内の木を切り倒し、土地を掘り起こし、その土で高さ1.8Mの防水堤を突貫工事で作り上げた。
  5. これは、何を意味するか?現地の指揮者が一番事情を知悉している。現地の社長に防水対策の全権限を与えた本社。常日頃から、タイにおけるリスクとして「洪水」を念頭に入れ、北部等の気象に注意を払って情報を入手していたこと、絶対に機械設備を守り操業を維持し、もって業績確保と従業員の生活を守るという強い決意を幹部が持っていたこと、当社のDNAとして、過去の経営陣から常に洪水対策のため、土盛りなどの対策を講じていたことなど、所謂BCP(Business Continuity Plan)を実践していたことが、洪水を目の前にして、団地内の会社と大きな差が出てしまったと言える。
  6. 今回の視察を通して感じたこと。

    1. 工場建設の際は、その土地の「固有のリスク」を過去から徹底的に調査し対策講ずること。例え、かなりの費用を要しようが、基本的な事柄であり、単に、経済的コスト=1㎡当たりXX円ということだけで判断しないこと。

    2. 現地社長が、常日頃からBCPの観点よりリスクを棚卸し、リスクが顕現すると予想される時は、BCPに沿って、断固とした決意と行動力でことに当たること。

    3. タイ国政府も、例えば、現在の自動車産業・電器産業に見るように、裾野産業が充実拡大し、互いがサプライチェーンで複雑に結びついているため、その一角が今回の洪水被害の如く崩れ、製品供給が停止すると、その被害は世界的な規模で、とてつもなく大きくなることをより自覚して頂き、洪水対策には万全を期して頂きたい。自動車・電器産業は、タイ国にとって極めて重要な産業であり、この心臓をなす工場群が見る影もなく廃墟に等しい状況を目の当たりにすることは、もう2度と見たくないし、今後、同様な状況となれば、タイへの直接投資の流れは必ずや変わるものと考える。今回のタイ洪水で、日本の「上場主要企業の期末連結営業利益が約7000億も減益する」と日経2月7日に報道された。日本の上場主要企業だけでこの莫大な数字となることを銘記され、万全の洪水対策を施し、2度と同様な事故が起こらないよう切にお願い申し上げるしだいである。


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