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何故日本の新聞報道では
タイの本当のところが見えないのか?

JTBF金融委員会
本村 博志(委員長)/小山 光俊/吉松 均/今城 彰


本年1月31日の日経朝刊に、「外資叩き相次ぐ―今年、日系企業は投資27%減」というセンセーショナルな記事が踊っていた。長年、タイに関心を持っていた筆者は、一瞬本当だろうか、と考え込んでしまった。確かに、暫定政権は政治のプロではない。経済問題など手に余るものがあるだろう。SNC(国家治安評議会)は、今だからこそ、従来、政党政治の下では、中々推進し難い政策も、一気に立案実施できるのではないかと期待はしていたが、前政権の行った施策に対して“何でも逆”式のスタイルで、必要以上に見直しに力を入れているかに見える。バーツ高阻止の為の30%のリザーブ規制(非居住者よる居住者からのバーツ購入に際し、30%の留保金を1年間、中銀に積むことを義務付ける規制)に関しても、株式相場の急落を見るや、朝礼暮改の政策変更と批判を浴びている。

でも一寸待ってくれ、だからと言って単純に同紙のように「タイ暫定政権は、内向きの姿勢を進め、一般受けの良い外資叩きを根回しなしに連発」していると結論づけていいのか?そもそも、「外資(foreign direct investment)歓迎政策」と「輸出」がlocomotiveとなって、これまでタイ経済を牽引してきたのであり、1997年の為替危機を乗り越え、現在の繁栄を見ていることは、正に、この永年の政策が正しかったからに他ならないのであって、これを身を以って知悉している副首相兼財務大臣のプリディヤトーン氏(前中銀総裁)が判らない筈はないではないか?日経の新聞報道が、現在のタイの真実なのかどうか、タイ好き人間の集まりである、日タイビジネスフォーラム(JTBF)の今回のミッションでは、これ等の点を十分に確かめ、真偽のほどを確認する必要がある。

そんなに急激な変化は、土台、国民性に適っていない。むしろ、嫌う筈である。今回のクーデターにしても、タクシン前政権が、金の力に物を言わせて、傲慢に且つ、急激に西欧式の国家運営を急ぎ過ぎた為に、国民の間に格差が拡がり、余りに無機質な表面的な繁栄を追求し過ぎた処に起因しているようにも思われる。

JTBFの訪タイミッション(金融委員会)は、タイ国の経済政策実施の要、プリディヤトーン氏に2月5日、直撃インタビューを試みた。30%のリザーブ規制実施に各界からの批判を浴びて、相当に落ち込んでいるかと思いきや、至って元気。溌剌として我等メンバーを迎えてくれた。メンバーから早速、上記、日経の記事に言及、“もし、この記事通りなら、日本等諸外国よりタイへの直接投資は減少に向かうことになり兼ねない。タイは長年継続してきた外資政策を放擲し、内向き姿勢に変更したのか?リザーブ規制の真の狙い、見通し如何?”と単刀直入に水を向けると、大臣は“それは、真実ではない。日本のマスコミはちっとも取材に来てくれない。その記事は、ニュースの継ぎ接ぎではないか?自分は、いつもワイド・オープンなのに。ウオールストリート・ジャーナルや、CNBC等々欧米のマスコミはドンドン取材に来ているよ”と、のっけから手厳しい。大臣がウオールストリート紙に寄せた書簡に、タイ政府の真の政策の狙いが書かれており、極めて参考となるので、重要な部分のみ、以下に引用する。

“Thai government welcomes foreign investment and foreign participation in our economic activities. We certainly do not pursue an inward looking development strategy, nor do we want to reverse the direction of foreign investment policy. The first measure was taken by the Bank of Thailand to secure the stability needed for exporters and foreign direct investment. It’s adverse impact on the capital market is believed to be short term in nature. The second measure was introduced with an intention to bring certainty to the regulatory environment for existing foreign companies. We did not enact the measure any protectionist intent”

上記書簡に明らかなように、タイ政府の従来からの外資政策は、全く不変であることをメンバーとの面前でもはっきりと言明、更に氏は、“30%のリザーブ規制もバーツが、昨年1年間で対ドル約17%も上昇、他アジア通貨の7-8%高と比較し、その突出振りが目立つ。クーデター後のタイ経済情勢から見て極めて異常な動きと言わざるを得ず、このバーツ高の状況が更に続くようであれば、タイ国経済を牽引している輸出・foreign direct investment(FDI)政策に多大な影響を与えかねない。一方で資本市場へは、当面ネガティブな影響は出ようが、短期的と見ている。タイ中銀は苦渋の決断を余儀なくされたものである。要は、為替相場の安定化を狙ったものであり、この規制が長く続くものとは思っていない。現在のオフ・オンショア相場(オン約35バーツ台後半で揉み合い、オフ約33-34バーツ台)も近い将来、収斂していくものと思われる。”

また、最近動きが活発化して来ているForeign Business Act 改正について同氏は、“誤解と誇張に満ちた報道がなされているが、この改正の動きは、タクシン氏のファミリービジネスであるShin Corp.が、所謂”nominee company”を使って同法の規制を潜り抜けてきた元々違法なもので、今回この法の抜け穴を、ただ単に、塞ごうとするのが趣旨である。また、外資に議決権を持たせた優先株を発行、表面はタイ資本がメジャーと見せかけ、実態は外人資本がメジャーの議決権を有している、というケースが、現状合法的に行われているものの、この法の抜け道を使って、元々、法で認められていない業種に進出しているケースに対し、抜け道を塞ごうというのが今回の同法改正の狙いである。BOI企業や既存進出済みの製造業、輸出業には全く影響は無く、ましてや、「外人叩き」でも何でもない。たとえ上記2つのケースに該当していても、その是正措置に1年間の猶予・既存の会社への“grand farther”扱いもあるので対応可能と思われる。“と明確に「外人叩き」を全くの誤解として、当方の理解を求められた。あいまいであった法の運用を、明確に法で規定し(”Foreigner”の定義)、Good Governanceを実行しているものと言えよう。

「やっぱりそうだったのか・・」と、メンバー一行は、訪タイ前に持っていた疑問が同氏の説明で氷解したのである。どうも日本の新聞は「白髪三千丈」的な、大向こう受けのする表現が好きらしい。いろいろな情報チャンネルを有している大企業であれば、これら報道に対して客観的な判断を下せよう。然しながら、相当な覚悟で進出してきている中小企業の方々は、大新聞に書かれてしまうと、疑う余地無く信ずるしかあるまい。特に、日本では「新聞に出ていた」「TVで報道されていた」というだけで、即、信じ込んでしまう傾向がある。それだけにマスコミは、生起している事実を、可能な限り調べ上げ、キーパーソンに取材をし、コメントを付けるなどして、色眼鏡をかけずに、中立的な立場から報道して貰いたいものだ。昨今のTV健康番組での不適切な報道を思い起こすまでも無い。

「日系企業、投資27%減」確かにこの数字自体は間違いではない。でも、果たして正しい認識なのか?「外人叩き」が激しいためにこういう数字となった、とでも連想させる扱い方ではある。これは、バンコク日本人商工会議所が、昨年11月に実施したリサーチの結果である。これ自体をどうと言っているわけでは、もとよりない。ただ、コメントを付して欲しかったのである。タイ国投資委員会(BOI)・タムロン副総裁の話では、2005年度は、鉄鋼、輸送の特別大型プロジェクトが含まれており、これ等を除いたBOIの所謂“Target Industries”への投資申請金額累計で見る限り、‘04年度:3910億バーツ、’05年度:4840億バーツ‘06年度:5140億バーツ、と右肩上がり傾向は続いている。日系でも、日産、トヨタのプロジェクトが特殊要因として、コメントさるべきであったろう。

タイバーツ高に対しても、急激な相場変動は、輸出企業やタイでオペレーションしている製造業にとって、短期間ではその対応は難しい。当面、通貨の安定を保つ為に導入した、リザーブ規制はやむを得ない政策であったろう。「金利引き下げで対応可能」と主張する向きもあるが、実際に施政の外から無責任に批判するのは容易い。アジアの他通貨に比し、さしたる要因もなく、対ドル相場が突出して高くなっている現状に直面し、タイ経済を牽引してきた輸出・FDI環境をこれ以上悪化させることが出来ないとして、リザーブ規制発動したのは、時宜を得た決断と思われる。ただ、もう少し、市場との十分なる会話があれば、スムーズに運んだ可能性はあったかもしれない。

吉松メンバー在タイ勤務時代に、散々にチョコレートを貢献した副首相は、“今度こそリベンジを!”と、意気軒昂、やる気満々の笑顔に見送られて、一行はMOF大臣室を後にした。

その後、金融メンバーは、上記財務大臣との面談の内容を、今一度、タイの政策担当者に確認するべく、タイ輸銀のDr. Apichai 総裁以下4名の幹部と面談した。加えて、タイの位置する地政学的な重要性について触れ、今後益々タイ国としては、インドシナ大陸における政治経済的に重要な役割を果たすべき。特に昨年、日本の援助で完成した第2のメコン河大橋が持つロジスティック的な意味合いは大きくなるであろう。タイ企業若しくは日・タイ合弁企業による、ラオス、カンボジアなど隣国への積極的な投資を助成すべきである。また、中小企業による、これら地域への投資案件について、タイ輸銀としては、投資推進の見地から、より柔軟な与信条件を認めるなどの配慮が望まれる。更に、日本では団塊の世代(1947年から49年生まれの人)が、今年から定年を迎え始める。7百万人の大きな層である。これらの人々の中には、タイをLong stayの地として、興味を持っていることを忘れないで欲しい。

之に対し、Apichai 総裁は、
①FDI政策は全く不変、バーツ高はタイの輸出競争力を弱めるもので、為替相場の急激な変動に対し、リザーブ規制はやむを得ない選択である。「外国人ビジネス法」改訂の検討は、外国人が、もともと違法な方法で制限業種に携わってきたケースに対する単なる「抜け道」塞ぎ、とプリディヤトーン副首相と全く同一の見解。
②インドシナ大陸に対する認識は、当方との寸分の差異も無く、今後とも隣国に対する直接投資など、積極的に支援していく積りである。現に、タイ輸銀としては、“Investment Fair” 等のイベントを近々予定しておりpromotionに努めているところである。
③この地域の物流が大きく変わろうとしていることは、当方指摘の通り。物流会社に注目をしている。帰国後、物流会社の投資案件の話があれば、前向きに繋いで欲しい。大いにBack upさせてもらいたい。
④隣国への直接投資に関わる与信供与に際しては、Projectの採算性、性質、その会社のCredit record などを総合的に見て、柔軟に判断するつもりだ。日本の銀行より厳しくはない、と自覚しているが。
⑤Long stay の潜在的な対象者が7百万人いるとは、正直驚いている。タイも外貨獲得の良いチャンスである。何かお手伝いすることがあれば、遠慮なく申し越してきて欲しい。(上遠野ロングステイ委員長に帰国後報告することを約せり)

タイの信頼できる経済通の政策遂行者2人に、外資への姿勢、バーツ対策等につき直接面談し、確認できた意義は大きいものと言える。特に、極めて悲観的な見方で報道しているマスコミとその報道を信じ、タイの将来に不安を覚え始めた中小企業者とに対し、JTBFとして、真のタイの姿を伝え、少しでも認識のギャップを埋めていかねばならいと、金融委員会のミッションメンバーは意を新たにして、タイ国を後にした。

機中、ある言葉が頭からようとして離れない。今般バンコクに滞在中、タイの日系製造業に勤務するビジネスウーマンと、ランチを共にするチャンスに恵まれた。タイでは、勝ち組に属する真面目な明るいladyである。 彼女の年末年始のテロに対するコメントである。“テロ?うーん、そんなんじゃない、ただ、単に、クレージーなガイの仕業よ!”  「白髪3千丈」とこの違い!この捉え方の違い、何処から来るんだろう、なんて考えるうちに、眠り込んでしまった。

平成19年2月22日
文責:本村



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