2024年08月01日配信
JTBF 広報委員会
タイミッション報告(その6)
「足るを知る」再考
教育委員会の委員としてミッションに参加した。既に委員長ならびに他の委員からの報告が行われていることもあり、私からはミッション中ならびに帰国後に気になったことを雑感として報告したい。
「足るを知る」という概念に私が初めて接したのは、1996年から2001年にかけてのバンコク駐在中に経験したアジア通貨危機後にプミポン前国王の提唱する「足るを知る経済」(Setthakit Phoophiang)が注目を浴びたことから。もともと仏教の教えが由来とされていて、その考え方に基づいて前国王が以前から提唱されていたもの。前国王自ら推進・指導されてこられた「王室開発プロジェクト」もその一環であるという。通貨危機を契機に、改めて注目を浴びたらしい。
通貨危機以前は、日本のバブル期と同様、飽くなき利益を追求することが経済発展に繋がり、結果として皆が幸福になるとの考え方が流布されていたように思う。通貨危機に伴う経済危機を経験して、「身の丈に合わない満足を目指すのではなく、分相応の満足を知る」という、いわば原点回帰の考え方が出てきたのであろう。この考え方は、現在世界中で提唱されているSGDsの考え方に通じるものがあり、前国王の先見の明に改めて感心させられる。
競争を伴う、飽くなき利益・利便性の追求こそが人類の発展に寄与するとの考え方に反対するものではないが、そこには何か節度が有ってしかるべきであろう。昨今の利益追求第一主義的な考え方には違和感を禁じ得ない。米国においてこの傾向が顕著で、若いころに共感した米国の Good Corporate Citizen 的な考え方はもう無くなってしまったのであろうか。或いは個人・法人・国家レベルにいたるまで、その余裕が無くなってしまったのであろうか。
最後に、ここ数年のミッションを通じて実感したのは、以前に比べて日本の存在感が徐々に低下していることだ。中国の急速な経済成長に伴う日本の相対的な立ち位置が変化しているのは否定できないが、タイがより中国寄りになるのではないかと内心危惧をしている。
尤も、過去に植民地となったことのない東南アジア唯一の国であることを考えると、未来永劫にわたって微妙なバランス感覚をもちながら、地域での存在感を維持していくのだろう。
文責 古賀 繁