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バックナンバー 2007-08

「日・タイ随想」

No.11 三原比沙夫 2007/08/02

日・タイの選挙に想う

 第21回参院選の7月29日午後八時。投票締め切りと同時に堰を切ったように流れ出したTV報道に目を凝らしたが、投票結果とは別に感じたことがある。

 第一は、開票率がまだゼロに近い何人もの候補に当確マークが付され、しかもこれが悉く裏書きされて行った出口調査などによる報道の正確さ。第二は、40歳代を中心に当選者の41%までを戦後生まれが占めた参院の若返り。そして第三は、不謹慎な言い方かも知れないが、雄弁で若々しい美人候補が当確の報に次々とブラウン管に登場、中には朝ドラのヒロインに似た面立ちもあって、まるで女優のオーディションの如き観を呈した報道の華やかさ、などである。

 まことこの選挙には、古い時代への訣別を見てとると共に、ひとこま進んだ民主国家に生まれ居る幸せを感じた。選挙のない独裁国家や独裁集団は論外として、形ばかりの選挙をやる体制国家に居るのではない。また制度上は自由選挙でも、実態は古いしがらみから抜けきれない面のあった(特に、地方部など)時代も過去のものとなりつつある感を覚えた。

 与党大敗の原因については随所で報じ尽くされており、筆者など触れる立場にないが、しいて云うならば、「小泉政権の陰の部分が色濃く出た感あり」とする趣旨の自民・舛添要一議員(今回再選された)の分析を引用したい。なおここで付言したいのは、様々な批判の直接の矛先が永田町に向けられるのは当然だが、年金問題を始めとする諸問題の真の病巣は、この選挙の陰に隠れる霞ヶ関にあると見られるケースの少なくない点である。これを見落としてはなるまい。永田町が霞ヶ関に対して十分な政治力を発揮できない場合は、何れの政党がどんな公約を掲げて政権の座につこうが、問題の根本的解決は望み薄であろう。

 処で、何処の国の政治でも光に影ならぬ陰は付き物だろうが、今世紀の政権の陰の部分の噴出といえば、クーデターで政権の座を追われ、日本にも出没しながら世界流浪中のタイのタクシン氏の右にでる話題はあるまい。産業興隆、貿易促進のほか多分にパーフォース色はあれ一村一品運動を始めとする農村振興策など「光」の部分も確かにあった。だが、資金力をバックに次第に独裁化した政治手法に加え、報道によるかぎり、身内に対して行なったとされる言語を絶する巨額の不当な利己的行為の前には、日本の陰の部分など影もなかろう。

 巨大な資金力をバックに低所得層に浸透したタクシン氏の「陰」は余りにも根深いようだ。この陰は消えるどころか、シンパによる大規模デモの頻発などで増殖の気配すら見せ、そんな不安定な政局下に来る 8月19日に新憲法制定の国民投票が行なわれると伝えられる。否決されれば現暫定政権への強烈な打撃となり、その場合は日本の与党大敗などとは違った次元の混乱も予想されるだけに、政府陣営も必死のようだ。

 なお、タイの国民投票に於ける投票資格は、通常選挙と同じ18歳以上であり、投票率に関係なく有効投票総数の過半数の賛成で可決される。それにつけても想起されるのは、問題提起されながらも、先般の国会で強行的に採決された我が国の国民投票法案に最低投票率の定めがない点である。

 天下分け目の決戦のごとく喧伝され、否応なく国民の関心が高まったはずの今次参院選の投票率は58.9%と報じられた。仮に改憲の国民投票が行なわれた場合、その投票率はこの辺の数値に終わることは十分予測されるが、過半数、即ち有権者の30%程度の賛成で国民の生死にかかわるような改憲案が可決されては堪らない。参院選の結果に基づく新たな政治の枠組みの中で、この問題は慎重に再検討されることを望むばかりである。

(了)