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バックナンバー 2008-07

「日・タイ随想」

No.22 2008/7/01

タイ人ホワイトカラーの実力

JTBF会員:今井 宏

 在タイ日系企業には多くの有能な事務系、技術系のホワイトカラーがおりますが、昨今彼らはタイ社会の旧来の階級意識の一端を示唆するかのように学歴社会を形成していることは否めません。海外からの留学帰り組を考慮すると、以前と比べその度合いはより複層的になりました。業種や担当業務の何であるかに拘らず総じて尊大で個人主義色が強い特徴を持っており、識見と賢さを相応に擁してはいますが、最終的にはひどく面子にこだわり、少し仕事の改善点を指摘するだけでひどく拗ねる傾向が見られます。従って社内での実力については未だその強さを感じられないのは私だけでしょうか。何かより上級の中間管理者や更に上級のエクゼクティブクラスと比較するとやはり頼りなさを感じてしまいます。上級者が下級者より優れていることは当然といえば当然ですが、もう少しなんとか上級者へのバックアップがうまく出来ないものかといらだちます。

 本来は少なくとも一つ上級の中間管理者を下支えすべき立場でありますが、仕事のやる気と実務の業績面で必ずしもそうでないのが現実です。数の上からは当然ワイトカラーの方が遥かに多いがために、残念ながらモチベーションが盛り上がらず本来の企業力としてうまく機能していない雰囲気が醸し出されてしまう恐れがあることは注意を要する点であります。ただ敢えて事務系、技術系と分別する必要はないのですが、特に製造業における社内の組織体制として、技術系ホワイトカラーは入社早々から日本からの技術移転を受ける立場での独自の教育が一般の従業員教育に先んじて、かつ積極的に行われるためか、はじめからシステム化とか標準化とかが無意識のうちに身についているようであり、実際に仕事を進める上で日本型経営姿勢に対する理解度や実効性がやや高く、仕事でのコーディネーションに馴染む姿勢が見られることはまだ救われる点であります。

 私がタイ人のホワイトカラーの卵をはじめて見たのは大学の奨学金を授与する場であります。奨学生の殆どの人が日系企業に関心を抱き、一時的なりとも出来るならそこでの仕事を経験したいと望む者が多いのには驚きます。それは奨学金をもらったばかりの気遣いからだけではなく、街に氾濫している高品質の日本商品を直接目にするとか、日本の経済発展、技術革新の優越性をあらゆる情報手段で知らされていることに関連があります。勿論希望企業についての特徴や経営姿勢についてある程度知った上で入社してきますが、彼らの仕事ぶりには落ち着きがなくやはり頼りないという印象を拭いきれません。何か悩んでいる様子です。

 入社したばかりなのにもうすぐにでも辞めそうな雰囲気を感ずることがあります。結局何人かは入社前の野望とは相容れず、不安と期待はずれに出会して辞めて行きます。こうした事象は日系企業における入社初期におけるタイ人ホワイトカラーの普遍的な傾向としての経験則でありますが、現在でもそう変わってはいないというのが私の持論であります。いろいろ悩みながらも日系企業に一応落ち着いた彼らの仕事現場での実際はどんなものかというと、通常は最初のオリエンテーションのあと、時期を選んで段階的に教育訓練の座学を受けています。日本人上司からのOJTもある程度ですが受けている筈です。その繰り返しをしながらいつの間にかすぐ5年余が経過してしまいます。

 それにしては日本人がより頻りに接する中間管理者層と比べてまだ物足りなさを感じます。上級者である中間管理者と下級者である一般ホワイトカラーの間の当たり前の仕事上の実力差を言っているのではありません。理由の一つに階級差があるとはいえ乖離しすぎる仕事効率においてもう少しでもいいから縮小できないものかと憂慮しております。例えば、一般のホワイトカラーの中には、管理者比較で進取の気象に乏しく、常に上司からの仕事待ち姿勢の人が多くおります。上司から受けた指示の基本部分が理解できない者も少なからず存在します。従って、横展や根回しが稚拙で、コンセンサスがうまくとれていません。その気概もなさそうです。周りの手前を気にしてか自己主張が見えません。

 これはおそらく1960年代に日系企業特に製造業が多くタイに進出し、タイ人材と仕事をした時、マネジメントの考えがあまりにも混沌としていて到底経営の現地化どころではなかったという時代を背景に必然的に管理者教育を優先させた残滓ではなかろうかと見ています。しかし現実は権限・責任ともにタイ人がとる真の「現地化」からやがて「グローバル化」へと進みつつある訳ですから、このままでいい筈はありません。

 即ち社内の体制として、タイ人管理者には一般ホワイトカラーへの業務指導ばかりではない人材育成といった機微にわたるひとづくりの役目をも従来より一段と負わせることが重要になってきます。日本人がこの任に当たることは駐在の大きな役目の一つですが、気心の分かった同士のタイ人管理者も共に下級者に向けて人材開発にあたる効果はより大であると判断しております。今迄タイ人がタイ人を教育する部分が欠けていたことは事実です。非常に勿体ないことです。グローバル化に向けて、タイは必然的に生産と輸出の基地になる環境にあり、企業によっては既に海外にタイ人インストラクターが出かけて教育する立場になっております。殆どの職種で実務を委せられているタイ人スタッフから構成される日系企業では今なお旧来の階級意識を極度に気遣うタイ社会の慣行や因習にこだわるタイ人はおりますが、少なくとも就業時間中は日系企業社会の仕事観に切り替える決心を期待されている訳であります。

 個別の日系企業が底辺に広がるホワイトカラーのレベルアップを通して発揮できる総合力はより企業の持続的な発展につながるだけでなく、究極的には日・タイ間の相互友好をより前進させるメリットを秘めていると考えております。