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バックナンバー 2009-05

「日・タイ随想」

No.32 2009/05/01

アジア破落戸

JTBF会員:西條 正和
2009/5/01

  またまたタイが大荒れである。本稿を草案中パタヤで開催中のASEAN首脳会議の開催会場に赤シャツ軍団が強行乱入し、急遽中止となりタイの国際的信用は大きく失墜してしまった。

  昨年の黄シャツ軍団による空港封鎖デモから半年も経たない中でまたこのような事態を発生させてしまったことは世界経済危機の中、タイ経済に対して更に輪をかけて、計りきれないほど大きな影響を及ぼしてくることは間違いない。

  今後も赤シャツ軍団・黄シャツ軍団が絡んだ政権争いに最近は青シャツ軍団まで登場し、更に混迷度を増すばかりで近い将来平和裏に解決する見込みはまったく立っていない。

  我々タイを理解し、愛する者とってはこの事態は大変憂慮されるとともに極めて残念な状況であり、一日も早い平静化を願うものである。

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  16年にわたるタイを中心とする海外生産担当というビジネスの世界を離れて6年が経過する中で本稿を委嘱され、久しぶりに当時を想いだし振り返ってみることとした。

  『破落戸』は「ゴロツキ」と読むが当て字で広辞苑にも載っているがこれをキチンと「ゴロツキ」と読める人は少ない。

  1985年のプラザ合意後の大幅な円高で日本経済も大きな打撃を受け、その対応策として、特に我々のような製造会社の多くがアジアに海外生産シフトするなかで弊社も遅れじとタイ・フィリッピンに海外生産展開を開始し、その初期に現地に駐在し、パイオニアとして大変貴重な体験をすることになった。

   そのような中当時、一時帰国した際各地の駐在員が集まり、一杯飲んでいる席上で「○○はアジアゴロだ!」というような話が出て、それ以来この「アジアゴロ」という言葉がなぜか耳に残り、一つの愛着のもてる言葉になっていた。

  この「ゴロツキ」という言葉はけっしてきれいな言葉ではないが会社の中で部下を指導する際「真のアジアゴロになれ」と強く何度も説いて廻った記憶がある。

   駐在員が多くの現地従業員を理解し溶け込んで仕事をするためには、日本の方にばかり顔が向いていたのでは期待する土台構築ができないからである。

   当時は営業部門を除いて海外経験が少なかったため駐在員一人選ぶのも苦労し、選ばれた駐在員の指導・教育は海外生産責任者として最も重要な仕事の一つになっていた。

   長年の駐在期間中に立ち代り100名を超える派遣員を指導して来たが刑期を待っているように駐在任期を待っている者・日本流でしか仕事が出来ない者・現地従業員の中に溶け込めない者や逆に権威の力のみで立ち向かうとする者等 いろんな駐在員をみてきたが現地責任者を経験した者はみんな同じこの苦労に頭を悩ましたことであろう。

   弊社の場合当時バンコク・チェンマイ・マニラ・広州に工場がありこれらの駐在員を指導・教育するため 『 アジア破落戸ニュース 』という教宣資料を定期的に発行し、意識改革を狙いそして真に現地に溶け込んで仕事ができる駐在員育成を期待し、繰り返し試みたものである。


   長年にわたる期間にはタイも大きく変化した。

   クーデターの発生・民主化運動・タイバーツの変動相場制への移動やそれまで急成長を続けてきたアジア経済を一挙に奈落の底に落としいれた経済危機そしてタイ国内の産業構造の変化や日系企業の企業内国際分業の調整等を経験し、大波・小波を乗り越えながら現在に至っている。


   その間、現地責任者は様々な苦労を味わいながらそれぞれの企業目的を達成するため日夜取り組んできたはずである。

   しかしこれと同時に駐在責任を果たすためにはその時点・時点のの問題解決以上に現地企業の将来の姿を描いてそれに向かっていかなければならないことはいうまでもなく、その会社特有の企業文化を形成することになる。

   その為には現地責任者として三つのキーワードを追求し続けなければならないと考えていた。

   それらは ①RISK予知とRISK管理 ②LOCALIZATION ③COMMUNICATION  である。

   リスク回避は企業としての絶対条件であり、日本企業ではなく現地に位置する企業の立場を認識していなければリスク予知は難しいしリスク対応能力を強化することは出来ない。様々に変化するその国特有の政治・経済から生じる様々なリスクを異文化の中で日々見極めていくことは、まさに「アジア破落戸」の役割であろう。

   次にLOCALIZATIONとは経営資源の現地化をさすが 人・物・金・情報・技術等経営資源の中でそれぞれに現地化推進の意義は大きいがここで特に重視したいのが「人」である。

   「人」の現地化とは「教育」と同義語と考えたい。当時駐在員にたいして「日本人の仕事は教育することである」と「アジア破落戸ニュース」を通じても厳しく指導してきたがどうしても目先の業務に取り組み、自己の業務領域であるとの認識に立ってくれず、LOCALIZATIONへの道程は遠く、ストレスから開放することが出来なかったことを思いだしている。

   次のCOMMUNICATIONはビジネスの基本ツールであることは言うまでもないがコミュニケーション・ギャップを改善するということはいろんな場面で永遠のテーマになっている。

   グローバル化が進みボーダーレス時代になっても人や文化は簡単にボーダーレス化することはできない。

   現地の場合、日本国内と異なるのは【 日本人―日本人 】・【 日本人―現地従業員 】・【 現地従業員―現地従業員 】の三すくみの意思疎通ルートがあり、それぞれの組み合わせに各々特有のコミュニケーション・ギャップが存在している。

   いずれの組み合わせに問題があっても企業目標をスムーズに達成することは厳しく、本音の議論ができる組織作りは極めて重要だと考えていた。

   「開放性については開放性を刺激するし、信頼は信頼を刺激する。」 「閉鎖は閉鎖を刺激するし、敬意は敬意を刺激する。」 という言葉があるらしいが自ら積極的にコミュニケーション・ギャップを埋めようとする努力が不可欠であり、これにより企業という組織の成熟度が決まってくる。


   このような考えを推進できる駐在員を期待するなかで、これらを実行できる「真のアジアゴロ」は数多く生まれてきて海外工場が大きな戦力になったことはとても嬉しいことであったし、そして今退任して世代交代が進んでいる中、この心が継承されていることを強く願うものである。


   現役を離れて久しいが今も時々彼ら「アジアゴロ」達と飲む場を設けては昔を懐かしく振りかえっている。

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  タイに真の民主主義が芽生えることを願って・・・・・・!


(元新電元泰国社長)