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バックナンバー 2009-06

「日・タイ随想」

No.33 2009/6/01

泡盛―タイ王国と琉球王国の数百年交流の証し

JTBF会員:上東野 幸男
2009/6/01

  最近「逆デカップリング(現象)」という言葉をよく聞きます。デカップリングの内容は「今回の世界金融危機によって米欧は大きな打撃を受けるが、アジアへの影響は相対的に軽微で経済成長の落込みは米欧より少ない」ということでした。筆者も日系企業のタイ国トップとして赴任される方への事前研修では「97年のバーツ危機も経験している」と楽観的見通しをお話していました。

   しかし 現実の数値で見ると、08年10~12月のGDP対前年比はタイ王国21%減、台湾・韓国・シンガポールは16%超の減少であり、米欧は約6%減に留まっています。予想に反して「米欧以上にアジアが落ち込んだ」ことを逆デカップリングと呼ぶようです。

   タイ王国は輸出に大きく依存する経済構造に加えて長引く政治混乱で景気が悪化し、本年度上半期(08年10月~09年3月)の税収が減ったため、5月6日政府は酒類の物品税率引き上げを決定しました。元来 お酒については選挙時の提供・販売禁止、宣伝広告制限、酒造最大手のTHBEV社* の株式上場反対デモなど風当りが強いのがタイ国です。* Thai Beverage Public Company Limited

   ビールは(工場出荷価格の)55%から60%に、ブランデーは45%から48%に、ラオカーオ(米蒸留酒)は純アルコール1リットル当り110から120バーツにアップします。小売価格はビール大瓶3~5バーツ、ブランデー1本19バーツ、ラオカーオが2~3バーツの値上げ見込みです。税増収(年63億バーツ)は大切でしょうが、4月の消費者信頼感指数(CCI)が過去7年半で最低の状況から逆に酒類の消費減退が気になるところです。

   5月16日・17日(代々木公園)の第10回タイ・フェスティバルでは ビールは「シンハー(獅子)」「チャーン(象)」「プーケット」の各販売ブースがあり、タイ国のビール消費拡大を反映していました。筆者のタイのお酒経験では、日本人の集まりでは昼夜とも「とりあえず」から「そのまんま」ビールですが、サイアムセメント幹部の方々などとの会食では水で我慢したことを思いだします。また お得意先の中国系電器ディーラーさんはブランデーで、お互いのグラスに同容量を入れて「エアコンX台」「冷蔵庫Y台」「扇風機Z台」などと約束して飲み続けて時々倒れたものでした。秘書はその都度お客先好みのブランドを車に準備してくれました。帰国後も来日のディーラーさんのために、自宅にも「ヘネシーVSOP」「マーテルのコルドンブルー」「レミーマルタンXO」などを準備していました。

   ワインはバンコクのレストランや料理店では仏・ブルゴーニュの「シャブリ白」一辺倒でしたが、タイ純国産のシャトウ・ドゥ・ルーイが96年の第1回アジア欧州会議でフランス大統領に評価されて以来、北部のルーイからカオヤイや最近は南部ホアヒンにもワイナリーができ、ブランドも多くなり日本にも輸入されています。(JTBFホームページ 吉川和夫氏の「タイのワイン」をご参照)。

   ただし 在日タイ王国大使館ご推奨の「タイセレクト・レストラン」でも(タイビールはありますが)未だタイ産ワインは殆ど準備されていないようです。

   タイ王国のラオカーオと琉球王国の泡盛は両王国の6百年間の交流を象徴するものです。同じインディカ米を原料とするお酒で、ラオカ―オのアルコール度数は28度から40度で、泡盛は30度が多く古酒では43度(酒税法は45度以下に制限)と似ています。

   タイ・フェスティバルにも2年前から琉球泡盛の瑞泉酒造(那覇市)がブースを出しています。1420年頃からシャム王国との交易で米蒸留酒の泡盛の製法が琉球国に伝来し、泡盛は重要な産品として管理されてきました。泡盛用の硬質タイ米は、通常輸入米とは別扱いで沖縄県に入荷して日本政府の厳重検査を受け、沖縄県泡盛酒造協同組合(48酒造所)が政府から直接購入しています。「黒麹菌と硬質タイ米」を利用するのが泡盛の特徴ですが、理由は①安定した麹造り ②酒の収量が多い ③脂肪や蛋白質が少ない ためです。

   また 奇しくもロングステイ希望地として海外では「タイ王国が第3位=2位の豪州と僅差」、国内では「沖縄県がトップ」となっています(ロングステイ財団・調査統計2008)。沖縄デュアルライフを希望する理由は「温暖な気候、好きな地域、環境の良さ、風光明媚など」で他の都道府県を大きく引き離しています。

   この沖縄県について「太平洋戦争での悲惨な地上戦や基地問題」などは日本全体がよく認識しておりますが、明治12年(1879年)までは琉球国として日本とは別の独立国であったこと、また 敗戦後はアメリカの占領統治下にあってドルが流通し、日本からはパスポートが必要であったことはつい忘れております。 沖縄復帰(返還)は1972年5月ですが、その後も旅行・出張の時には那覇空港で免税のお酒などを購入したものでした。

   泡盛は度数の高い焼酎と思っている方も多いと思いますが、麹(黒麹菌VS白麹菌)も原料(タイ硬質米VS芋・麦・米・蕎麦)も異なります。 更にタイ・シンパとして宣伝を致しますと泡盛は「低カロリーのアルカリ性で血栓溶解作用の高い」お酒です。

   まさに「酒は百薬の長」の代表選手と思います。


(日タイ ロングステイ交流協会事務局長)