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バックナンバー 2010-08

「日・タイ随想」

No.47 2010/8/01

マンゴスチン


JTBF会員: 豊田 資則
2010/8/01

 先々週末、久しぶりにCOSTCOに買い物に行った。ご存じの方も多いと思うがCOSTCOはこの不況の中大変な好調を維持しているアメリカのスーパーマーケットである。タイに赴任する前にニューヨークの田舎に居たことのある我々は何となくアメリカの匂いを嗅ぎに、ここに時々買い物に行く。今回は孫たちが来てバーベキューをするというので、ブロックの肉を買いに行った。お目当てのランプはなかったがリブアイ、ショルダー、ニューヨークカットが大きな塊で売っている。値段も大変リーズナブル。我が家は女房と娘の3人だから普通はこの手のブロックを買ってもとても食べ切れない。

 肉の横の野菜売り場をのぞいたら、そこに何とフレッシュなマンゴスチンが置いてある。ネットに8個入って680円。安い。バーベキューの後のデザートにと思って2袋求めた。確かマンゴスチンは地中海ミバエの媒体になるという事で日本は輸入禁止だったはずだが、どうしてCOSTOCOに置いてあるのだろう、さすがアメリカ系のスーパーマーケットと、妙に感心してしまった。同じように地中海ミバエで輸入禁止になっているのがタイのフレッシュマンゴー、いま日本に入っているフィリピンマンゴーもそこそこの味だが、タイでマンゴーを食べたことのある方なら100%タイ産の方がおいしいと云うのに違いない。タイ人も何とかこの美味しいマンゴーを日本の人に食べて貰いたいと考えたが、日本の厚生省、農林省は頭が固い、当時は最後は温燻ならという話になった。温燻といっても細かい数字は忘れたが結構高温、つまりフレッシュなマンゴーを煮てから出せというのと同じ。結局味が落ち過ぎて商品にはならなかった。地中海ミバエはもし蔓延すると日本のミカン農家に大きなダメージを与えるから、という理由は分かるがあの美味しい味をそのまま輸入する方法はないものかと、色々考えたらしい。結局タイの人はリラクタントであったが、薬剤燻蒸に踏み切ったようだ。マンゴーがOKならマンゴスチンもという事になったらしく、識者の話では2003年に許可になったのだそうだ。

 ならアメリカのスーパーマーケットでなくとも、もっと市場に出回ってもいいはずだが、超高級果物店へでも行かなければ置いてないのだろう、それも超高値で。よくよく考えたらCOSTOCOには良く外人を見かける、それもタイとかフィリピンとか、或いは髪の毛を隠した女の人たち、こういう人を相手にこの手のものを並べてあるのだと合点がいった。

 似たような話があった。ドリアンは輸入するのに何の制限もない。でもあの匂いのせいで中々日本には入ってこない。有名果物屋ではメロンと同じ桐箱入りで目ん玉が飛び出るような値段で売っている。誰も買う人はいない。うちはこういうものでも扱ってますと云う宣伝効果を狙ってるとしか思えない。

 もう大分前になるが信州の田舎のスーパーの籠にたくさんのドリアンが置いてあった。良く見るとガンヤオである。こんな信州の田舎でドリアンなんて珍しいなと大いにびっくり、タイでは好きだと言っていたた女房は今一つ興味を示さない。西瓜なら叩いてみるが、ドリアンの熟れ具合を測る術を知らない。値段は安いが明日でもいいやと思い、買うのを見送った。その2日後同じスーパーに行ったらドリアンの影も形もない。臭くて捨てわけではないはず。それがものの一日で全部売り切れた。確証はないがあの辺りには結構いろんな工場がある、多分タイからの出稼ぎの人が故郷の味が懐かしくて買ったのだろう。そう思うと一昨日買っておけば良かった、と思ったが後の祭りであった。

 日本は島国である、それだから長い間鎖国も出来た。悪いものも入ってこなかったが、いいものも随分と遅れて入ってきた。国の形を取るためにはそれなりの形は必要だとは思う。検疫のシステムも必要なことだとは思うが、このシステムとて大昔に決まったものをそのまま踏襲しているのに過ぎないのではないか。驚かれる人がいるかもしれないが、バクテリアは全く検疫もないらしい。例えその菌が病原菌であっても同様である。研究用だったり、水処理用だったりで結構流通しているらしい。キノコを持って来ても植物検疫を通す必要はないのも同様である。日本は海から来るものにも寛容である。海は世界につながっているから、海産物を規制しても所詮は無駄なことと考えているらしい。その点オーストラリア、ニュージランド人は結構うるさい。タンカーとか大きなバラ船は帰りは空で帰ることが多いが、船の安定を取るためにバラストを張る、大概が海水であるが、この海水の中には色々なプランクトンが入っている、このバラストを大洋州で捨てると大洋州の生態系を変えるから大洋州に入る前に捨ててこい、若しくは真水を積んでこいなどと言い始めている。どんな国でも国の形を取ると結構独自の考え方が横行する。

 その点タイ人は相当フレキシブル、昔からやってるから、などという事はあまり言わない。未だ発展途上にある国だから、日本の役人みたいに前例を重んずると国の発展を妨げると考えているのではなかろうか。 時代は刻々変化する、特に世界の往き来がこれだけ頻繁になり、情報の伝達のスピードが速くなると昔と同じことをやっていたのではどうしても取り残されてしまう。前の会社で「現状維持即是脱落」という標語があったが好きな言葉である。勿論国には文化がある。その文化まで捨てろなどという気はないが、仕事の世界では新しいことに積極的にチャレンジするべきだと思う。

 最近、会社の健康保険組合から国民健康保険に変わった。まず驚いたのがその金額の高さである。前年の収入がそこそこであったということが影響しているのは分かるが、月額5万を超える金額である。次に驚いたのはその金額の査定の方法である。一生懸命あちこち見て一応理解はしたが、これが理解できる人が何人いるのだろうと思わずにはいられなかった。厚生年金の配布物も説明が分かりにくい。あれでは責任を取らされないようにことさら分かりにくくしているとしか思えない。もし私の会社でこんな表現をする輩がいたら、君は結局何が言いたいんだ!!と怒鳴りつけるところだ。

 郵便局に行く、留守の間に不在者通知があり郵便物を取りに行く、必ず身分を証明するものを見せろという、運転免許証を見せる、運転免許証には写真が貼ってある、本人だと見れば分かるのに免許書番号を記録する。株の配当も20万を超えると今度は免許証をコピーする。いったいこのコピーをどうするんだと聞いたら、保管しておきます、と。この紙に取ったコピーを保管するロッカーのスペースを考えただけでも凄いことになるのだろうと思った。彼らの頭の中には何かあった時の為に、自分はここまでやりました、だから私の責任ではありません、という事しか頭にはないのだろう。或いはマニュアル通りやってりゃ良いと思ってるのだろう。この為やたらと時間が掛る。そんなことはこっちの責任ではない、と思っているんだろう。代わりに大きな声で有難うございました、という。まるでラーメン屋で店員が全員声出すように。民営化を勘違いしているとしか思えない。役人は有難うと愛相を振りまくことがサービスだと勘違いしているのだろう。仕事のプロセスを簡略化し、人を減らしコストを下げる。忙しい御客を待たせない。そんな発想は微塵も伝わってこない。

 選挙で民主党が大敗した、菅総理は消費税の切り出し方が唐突だったと敗因の一つを語っていたが、国民は中央官庁は知らなくても地方の役所がどんな仕事の仕振りをしているかよく知っている。先ず遊んでいる人を減らせ、責任逃れの余計な仕事はするな。それが先だ、と言いたかったのだろう。衆参捻じれは、これからの日本の国をどういう形にするのだと云う事をはっきり決めてしっかり話し合え、自分の権力とそれを維持する金集めだけ、なんていう政治家はとっとと消えろと云いたかったに違いない。

 COSTOKOで買ってきたマンゴスチン、その日の夜は食べるものが多すぎて結局誰も手をつけず、後で食べたら皮が固くなって、中だけ痛んで半分以上捨てる羽目になってしまった。折角遠いタイからやってきたのだから、もう少し早く食べてあげればよかった、と後悔。我々タイに住んだことのある人は、タイ産だと分かれば進んで買おう。タイに対するドーネーションだと思って。


(元伊藤忠タイ社長)