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バックナンバー 2011-06

「私がおすすめするタイの旅」

☆☆私がおすすめするタイの旅(6)☆☆


ウボンラチャタニへ列車の旅

JTBF会員: 布施隆史
2011/06/01


タイと関わって16年、この間タイの様々な場所を仕事・観光で訪れたが、いつも飛行機または車利用で、列車を利用したことはなかった。9年前の古い話だが、一度だけ列車を利用したことがあり、印象に残っているのでそれについて記したい。

単身赴任中の2001年11月下旬、妻がタイに来た折にどこかに旅行しようということになり、いつも利用している旅行会社に相談したところ、ウボンラチャタニとその周辺を紹介され、且つ往路を列車、復路を飛行機利用とすることを勧められた。当時タイ駐在2度目で通算滞在年数は6年近くになっていたが、それまで列車を利用したことがなかったため、このアイディアに乗ることにした。

列車はフアランポン駅21時発、翌朝7時ウボンラチャタニ着の夜行寝台列車。2人一部屋の一等寝台、2段ベッドのコンパートメント。客車には韓国製のプレートが貼ってあった。旧ソ連に出張した際、モスクワーレニングラード間の寝台特急に乗ったことがあるが、ソ連の広軌に対してタイ国鉄は狭軌であるにも拘らず、コンパートメントの広さとベッドの大きさはソ連のものとさして変わらない印象で、内部も清潔に保たれていた。発車前に車掌(英語を話した!)がコンパートメントに来て内部設備の使い方やベッドメイクをするとともに夕食をどうするか聞いてきた。食堂車があったかどうか記憶にないが、我々はタイ式弁当を注文した。

バンコクからウボンラチャタニまでは約600kmだが、これを10時間かけて走るので、平均時速は60kmということになる。旅行会社曰く、もし渋滞などで発車時刻に間に合わなかった場合は、タクシーでドンムアン空港駅に行けば列車に追いつけるとのこと。郊外に出てから速度は上がったが、確かに市内を抜けるまでの速度は相当ゆっくりだった。

ウボンラチャタニには定刻よりも15分程度遅れて到着したが、旅行会社が手配したという車やガイドが見当たらない。土曜日の朝とあってバンコクの旅行会社に電話しても連絡がつかず、若干焦り始めた7時半頃ようやく迎えが現れた。何時に到着したかと聞かれたので7時15分と答えたところ、ガイド曰く「早かったですね」と。15分程度の遅れは「早く到着した」部類に入るらしい。思わず苦笑い。

日曜日の夕方ウボンラチャタニ空港からバンコクに戻るまでのほぼまる2日間、プレアビハール(タイ名はカオ・プラ・ウィハーン)遺跡、絶壁に描かれた古代人の壁画(パー・テム)、市内の寺院、タイ・ラオス国境、船上レストランでの食事などを楽しんだ。

プレアビハール遺跡は2-3年前、カンボジアが世界遺産に登録し、これに反発したタイとの間で双方の軍隊が遺跡周辺に対峙して発砲騒ぎが発生したのは周知の通り。いまもこの“国境紛争”は解決しておらず、現在一般人の遺跡見学は禁止されていると思うが、当時は平和そのもので、遺跡から見た眼下に広がるカンボジアの密林の景観が見事だった。

古代人の壁画は、ウボンラチャタニ郊外の絶壁に残されている動物や狩の様子などが描かれたもので、ガイド曰く約4000年前のものとのこと。遠い昔、タイにもこうした壁画を描いた古代人がいたのだとガイドは得々と説明していたが、壁画の色が妙に鮮やかで、最近塗りなおしたのではないかという印象だった。壁画が色褪せてきて見学者に見えにくくなってきたのでよく見えるように塗りなおした、しかしそうしたからと言って壁画の存在事実が消えるわけではないと考えたどうかは分からないが、そうとでも思わないと色の鮮やかさに対する疑問は消えない。

ウボンラチャタニから陸路でラオスのパクセーに向かう途中にある国境(チョーン・メック)にも行って見た。徒歩でラオス側に少し入ってみたが、両国側に免税店や土産物屋が並び、なかなかの賑わいだった。

現在ラオスとの国境のメコン河には日本の援助で完成した橋が2本ある。ひとつは上記チョーン・メックからパクセーに向かうラオス領内にあり、いまひとつはウボンラチャタニの北約200kmのムクダハンとラオスのサワナケットを結ぶ場所にある。両橋とも片側1車線だが、長大な橋であり、これを見ると日本もメコン河流域開発に貢献しているという実感が持てるし、日本人にとって喜ばしい光景に映るのではないかと思う。

日本からの旅行者(特に団体旅行者)が列車を利用することは殆どないと思うが、いつもの飛行機やバスに代えて、旅程に鉄道利用を組み入れ、ゆっくりした列車の旅をするのも一興ではないかと思う。もっとも、膨大な累積赤字を抱え、充分なメインテナンスが行われているとは言い難いタイ国鉄を利用するのはリスクがある(事故や遅延によるあとのスケジュールの狂い)という旅行会社側の懸念もあろう。鉄道に対する信頼性を高めないと、残念だが現状では日本人団体旅行者による鉄道利用は難しいかも知れない。

9年前のことなので今でもこの夜行寝台列車が運行しているかどうか定かでないし、運行しているとしても料金は変わっていると思うが、当時ウボンラチャタニまでの片道列車代金は1,000―1,100バーツ程度だったと記憶する。速度が遅く、若干揺れが大きい(狭軌の割りに車体が大きいためか線路のメインテナンスが悪いためか分からない)のは事実だが、一等夜行寝台でこの料金はかなり割安という印象だった。朝のお茶を飲みながらゆっくり走る列車の窓からタイの田舎を眺めるのも悪くない。

日本人団体旅行の行く先はプーケット、サムイ、チェンマイ、アユタヤなどが中心となっている。確かにこうした場所は観光資源も豊富だしリゾート地としても有名だが、いつもこれではリピーターを増やすのは難しい。もっと地方の観光資源を開発し紹介することによって、定番の観光地めぐりに飽き足らなくなった観光客を誘致することも検討すべきではないか。

一昨年、仕事でラオスに行った際、同国南部のコーンパペンでラオスの田舎を旅行しているという日本人団体旅行客(20人くらいいたと思う)と出会った。みな素朴なラオスの田舎が好きとのことで、中には何度も田舎周り旅行に参加しているという日本人もいた。工夫すればタイでもこうした旅行を組み立てることも可能だろうし、定番旅行に飽きた旅行者を惹きつけることにもつながるのではないか。


(元泰国日商岩井社長)