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バックナンバー 2015-02

「フラッシュバックタイランド」
タイ国日本人商工会議所「所報」より転載

~元タイ駐在員のその後~ 第31回

JTBF会員:水谷和正
2015/2/01

 私は1990年9月から1996年10月まで日航バンコク支店長として勤務しました。赴任を終えて帰国してから既に17年になります。その間、2002年にJTBFが発足。以来観光委員長を務めております。このフラッシュバックタイランドにはこれまでJTBFの会員30名の方々が寄稿され、私は最後31番目を承りました。
 この機会に先ずJTBF観光委員会のご紹介をさせていただきたいと思います。本来時系列的に赴任時のことから書き起すべきかもしれませんが、あえて後に触れさせていただくことにしたいと思います。

TAT東京オフィスとの連携

 JTBFは在京タイ王国大使館との連携を基本にしています。現在11の委員会がありますが、それぞれが大使館の該当部門と連絡を密にしています。観光委員会はタイ国政府観光庁(TAT)東京オフィスとの情報交換を活動の基本にしています。TATとの近年の協力関係の一貫したテーマは、日本人タイ旅行者にタイの地方の魅力をどうしたら伝えられるかです。こんな一文をものしたことがあります。

 『昨年(2012年)タイへの日本人旅行者は120万人を越え、タイはビジネス、観光、いずれの面からもアジアでもっとも近い国になっています。ただ日本人旅行者の主な行き先はとなると、大部分がバンコクおよびその周辺であり、加えて一部チエンマイ、ビーチリゾートのプーケットと極めて限られたところでありましょう。
 JTBFが行っている毎年のタイの地方への旅でも日本人の旅行者に会うことはめったにありません。会うのは欧州人。4万人以上滞在しているバンコクの日本人ですら仕事以外でタイの田舎に旅する人は極めて少ないのではないでしょうか。
 ゴルフ、マッサージ、夜の飲食とタイの魅力は枚挙にいとまがありません。しかし旅には本来それだけではないもっと何かがあるような気がします。それは、日常定住して暮らしている人が異次元の世界へただならぬ出会いを求めて出かけることではないでしょうか。
 タイの田舎を歩く多くの欧米人を見るにつけ、ゆったりとした時間の流れの中に身を置くライフスタイルを欧米人は文明として身に着けているように思えます。日本人にとって旅とは何なのでしょう。』

 TAT東京オフィスは、日本人のタイへの旅行者の数を増やすことを第一義的目的にしていると思いますが、最近は訪問者数の増加はもちろんのこと質的な面、すなわち、新しいタイの国内観光ルートを開発したいという強い意図を感じることができ、それは歴代の所長に引継がれています。初めてタイに旅行される方はともかくとして、リピーターにもっと広くタイの地方を訪れてほしい、また地方の発展にも寄与したい、という思いもあるでしょう。
 私の思い、それはJTBF観光委員会の思いですが、それとTAT東京オフィスの意欲が見事にマッチしたのが昨年2013年11月に実現したスリンへの旅でした。

パノムルン・スリン象祭りの旅

 2013年11月14日から16日まで2泊3日のこの旅は、TATとJTBFが共同で企画実施したものですが、その実、TAT東京オフィスのニタヤ所長の期待が込められた旅だったといえるでしょう。もちろん、スリンの象祭りは年に一度の大イベントにふさわしいものでしたが、その前後に設定された観光のひとつひとつどれを取っても得がたい体験と感動を与えてくれるものでした。旅程の最後にコンケーンの近く、バン・プラサート村に立寄りましたが、村民から心あたたまる歓迎を受けたことも忘れられません。タイ人の特質としてナムチャイのことをよく聞きますが、それがどんなものかタイの地方に行くとよくわかるような気がします。いずれにせよ、TATの色々な役職を経てきたニタヤ所長の「タイには、イサーンには、地方には、隠れた魅力がこんなにたくさんあるんですよ。」というメッセージが伝わってくるすばらしい旅でした。
 旅の手配運営でお世話になった(株)エーアンドエーにとってタイの地方への旅行企画はあまり経験がなかったことですが、担当された方はこれを期に定番にもっていきたいと感想を述べておられました。
 なおこの旅にはJTBFの会員および友人を中心に合計38名が参加し、旅のフリーライター2名も招待されており、かれらのレポートもポジティブな印象を与えるものでした。
 参加したJTBF会員による旅行記は http://www.jtbf.info/2013_Surin/ に収録しています。具体的な旅程やビデオなども収録していますので参考にして下さい。
 今回は日本発で催行人数に達しましたのでバンコック在住の日本人の皆さんにはお声をかけませんでしたが、今後タイの田舎の旅の開発に当たってはたとえばJCCの観光委員会などとも連携して日本発と併せてバンコックでも集客する等を考えてはどうでしょうか。

私がおすすめするタイの旅-アンケート

 2010年TATが50周年を迎えた折TAT東京オフィスの要請を受けて、JTBF会員から「私がおすすめするタイの旅」アンケートを募ったことがありました。会員各自は駐在中に色々な旅を経験しており、その体験に基づいて多種多様な観光ルートを開発するためのアイデアを提供してもらいました。その結果、次の4旅程をTATに提案することが出来ました。いずれも定番の旅程とは異なるものです。
 1.豊かな自然、北部タイの旅
 2.スコータイ地区観光とタイ北部の列車の旅
 3.タイ国東部クメール遺跡巡りの旅
 4.ロッブリ、ペチャブン、ルーイの旅

 またこれを受けて、TAT東京オフィス所長(当時パッチャニーラック所長)から追加で、日本人に特におすすめしたい観光5スポットの推薦がありました。くわしくは http://www.jtbf.info/myBest.html にまとめていますので参考にしてください。

 この第4案については、2011年2月のJTBF訪タイミッションの機会に実施しています。 この時の様子は http://www.jtbf.info/myBest1.html にまとめています。 また上記「パノムルン・スリン象祭りの旅」は第3案を伏線にしています。 私個人としても、2010年に友人達と第1案を体験しています。 タイ、ミャンマーの国境に連なるドイ・アンカーン、ドイ・メーサローン、ドイ・トゥンの山々に沈む夕日、そのすばらしい光景は忘れられません。

 さてJCC会員の諸兄におかれては、毎日を多忙にお過ごしのことと思います。旅行などとても、という方も多いと思いますが、赴任中のどこかで、あるいは帰国後のいつか、是非タイの地方への旅に思いを馳せていただきたいと思います。実現できたら、思いもよらない発見や感動が待ち受けていることでしょう。

バンコック駐在の想い出…「これからはアジアの時代だ」

 私が赴任した1990年、日本企業のタイへの進出は文字通り殺到という様相でした。確か90年、91年、毎年、BOI認可の主として生産施設ですが、毎年120件以上操業を開始していたと記憶にあります。実にBOI認可企業だけで3日ごとに1工場が操業を開始していたことになり、そのほかのサービス産業等の会社の進出も入れればほぼ毎日、日本の会社が事業を始めていたことになります。毎晩、開業披露宴が開かれ、現地日本企業の社長は梯子でパーティを走り回っていたのもわかります。
 まさしく、タイ経済が歴史上、本格的な経済発展期に入ったといわれた時期であり、その躍進を可能にしたのが日本の貢献であったのです。仕事にかかわる思い出は尽きません。日タイ関係が戦後最高といわれた時代であり、タイがもっとも熱く燃えたこの時期にタイに滞在し、仕事をできたことに私は今でもありがたく感謝の気持ちでいっぱいです。

 私が赴任した頃、日本にとって「これからはアジアの時代だ」と「また」言われていました。「また」というのは以前にも言われていたということです。
 世界一の高度成長の東南アジア、それが21世紀まで続くと予想され、アメリカ、ECとの様な経済摩擦もなく、対日感情もすこぶる良く経済関係もうまく行くだろう東南アジア、今度こそ「アジアの時代」の到来と思っていました。
 ただその一方では、日本で繰り返される「アジアの時代」、その背景には、日本は先進諸国の仲間なのか、それともアジアの中にアイデンティティを確立すべきなのかという明治以来繰り替えされてきた、いわゆるアジア主義の是非の問題が依然として存在しているということを感じていたのも確かです。
 このときから約20年以上が経ちました。あの頃と比べて、日本のアジアへの姿勢は文字通り「アジアの時代」にふさわしく変わったのでしょうか。

 つい最近の朝日新聞のオピニオン欄で識者であるシンガポール国立大の院長が次のように述べているのにちょっと驚きました。日本はいまだ100年以上前の「脱亜入欧」を信じているようだ、と喝破しているのです。一個人の見方だけとも思えません。

 『今起きているのは欧米からアジアという西から東へのパワーシフトです。日本も世界が変わりつつあるとの現実から目を背けています。日本の政府立案者は今でも、福沢諭吉の「脱亜入欧」を信じているようです、昭和初期とは違うのです。私は日本の外交官に聞きます。「パリとジャカルタのどちらによりランクの高い大使を日本は送っていますか」 100年前はパリでしたが今はジャカルタなのです』

終りに

 JTBF最後の寄稿者として、僭越ですがこれまでの寄稿者とJTBFを代表して、フラッシュバックタイランドという場を与えて下さったことに対して、JCCの関係者にあつくお礼申し上げます。 JCCのますますのご発展とJCC会員諸兄のご健康とご活躍を祈ります。



元日本航空バンコック支店長