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日タイビジネスフォーラム (JTBF)

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タイ国に駐在経験のある日本人ビジネスマン(現役&OB)が個人の立場で参加しています。これまでの日本・タイ国両国におけるビジネス経験を生かし、両国間友好関係の促進に寄与したいと考えています。


sketched by H. Murata
Ratchaphruek (golden shower) in Santichaiprakarn park, Bangkok


リレーエッセイ 第34回配信

2025年08月01日配信
JTBF 広報委員会

著者は20112015年の間、NESDBの政策顧問として奉職し、アーコム長官(元財務大臣)の下で産業政策立案の助言を行ってきた。この間、タイ工業省とも連携し、タイ大洪水と東日本大震災を契機とした日泰お互いフォーラムを創設(創設当初は「Otagai Conclave)、爾来日泰双方において24回を数え、現在までに至っている。お互いフォーラムは、当初、BCPの観点から、「まさかの時はお互い様」の精神で、日泰相互の生産を中心としたバックアップシステムの構築を目的としてきた。その後、日泰の産業相互補完(お互いの弱みを互いの強みで補い合う)によるイノベーション創造を目的としたプラットフォームとしてバージョンアップして今日に至っている。当時から、local to localの地域間連携を進め、日本各地のそれぞれの強みのある産業クラスタを連携することによって、新たな産業創造を目指してきた。本稿では、こうした取組の延長上に、新たな産業創造(=シン産業化)を目指してきたことから、①その積極的な意義や背景、②比較的視座としてインドの産業政策との比較、③具体的なシン産業創造の事例、について説明する。


産業クラスタ連携を前提としたシン(新)産業創造は、一つにはイノベーションが牽引する成長軌道の確立による泰の「中進国の罠」の解消、二つにはFDI誘致型下請産業構造からの脱却(現下のコリドー型産業誘致戦略もその一環)、三つには既存の日系企業にとって、「新天地効果」を伴う破壊的・断絶的なイノベーション創出の期待、を目指す、いわば互恵的(win-win)日泰連携を模索してきた。M.ポーターを招聘して産業政策の転換を目指した泰と、FDI牽引型成長に依拠してきた泰を、二つ乍らに止揚し発展的に成長させるという戦略である。著者駐在当時、アチャカ工業大臣の諮問に答え、既存のサプライチェーンを前提とした(日系下請型)産業のミッシングリンク解消を政策化したことが先のお互いフォーラムの端緒であるとすれば、その発展的な様態であるお互いフォーム2.0において彼我の産業間融合を進めるものに成長したことは心強い。


Thailand 4.0Make in Indiaの大きな相違点は、両国のバリューチェーンの域外依存性、逆に言えばアウタルヒーの深度といえるだろう。産業構造の違いを超え、インドはDX化の文脈や、人財の面でも競争力を蓄えつつある。著者がインド駐在した2006年当時、グジャラート州首相であったモディ現首相やマンモハン・シン首相らと進めたインドの産業政策が目指したのは、まさに日系FDIを「賭金」とした日印産業連携であり、タイ(或いはASEAN)における日本のアジア戦略史の文脈に位置づけられるものであった。然し乍ら、その後インドはデジタルにおける競争力とシステムメーキング(India Stack)、地政学・地経学において独自の地歩を固めつつある。泰の産業政策もインドの顰を習い、破壊的・断絶的なイノベーション創出に向けた政策転換が必要となる。


ではそのような産業政策としてのシン産業創造は日泰間で共有できるのか?local to localの延長上に、幾つかの萌芽を確認することができる。これがお互いフォーラムを進めてきた真の狙いである。具体的なシン産業創造の事例を紹介しよう。一つ目はDX養蚕である。タイ工業省との連携を通じて実現した京都府との連携の所産である。京都西陣のクラスタに端を発する、次世代養蚕の謂いである。具体的には、タイを中心とした「桑ベルト」と呼ばれるコンケンやチェンマイの栽桑地域に、FSR: Field Scouting Robotと呼ばれる「陸上ドローン」を投入、桑パウダーを安定的に供給し、全自動・無菌・無人の昆虫工場において生糸の原料であるタンパク質繊維を生産するという仕組みである。現下のマイクロ・プラスチック問題や、化石燃料利用に対するグローバル・コミュニティの反発(SDGsESGの「追風」)によって、当該シン産業創造は加速的に進んできた。この間、クイーン・シリキット養蚕局などの政府関係者、カセサート大学、チェンマイ大学などのアカデミアを束ねた産学官融合フォーラが立ち上がり、日泰両国の連携によって事業化が実現した。


二つ目の具体的事例は、昨年元旦に発災した能登半島地震の被災地との連携である。石川県は
2022年にタイ工業省とMoUを締結、第22回お互いフォーラムにおける天然素材連携を進め、スリン工業大臣の来澤を以て連携に着手した。


これら二つの事例は所謂
GAFAMBATHなどに対抗的に形成される草の根的な連携による新たなmeta nationalの産業融合の形として銘記されるだろう。


元タイ政府国家経済社会開発委員会政策顧問
金沢大学教授 松島大輔