サイトイメージ
文字サイズ:   

タイ国経済概況(2025年11月)

トップページ

1.景気動向

(1)タイ商務省の10月27日の発表によれば、2025年1~9月の輸出額は前年同期比+13.9%の2,541.5億米ドル、輸入額は同+11.9%の2,545.8億米ドルで、貿易収支は4.3億米ドルの赤字となった。品目別輸出額では、農産物・加工品が同+0.6%(403.5億米ドル)、そのうち米は同▲30.7%(33.9億米ドル)、天然ゴムは同+3.7%(3.8億米ドル)、電子製品・同部品は同+35.6%(527.2億米ドル)、自動車・同部品は同+1.0%(299.1億米ドル)だった。国・地域別輸出額では、首位が米国で前年同期比+28.6%の521.8億米ドル、次いで中国が同+16.1%の306.7億米ドル、日本が同+1.6%の176.9億米ドルとなった。商務省は、米国の相互関税問題が明らかになり、かつ緩和方向に進んでいることから、世界貿易が回復しはじめているとし、2025年通年の輸出額は前年比+9.4~10.4%になるとの見解を示した。
 
(2) タイ工業連盟(FTI)が10月22日に発表した2025年9月の自動車生産台数は、前年同月比+4.8%の12.8万台で、3ヵ月ぶりにプラスを記録した。内訳は国内向けが同+22.7%の4.2万台、輸出向けが同▲2.3%の8.6万台。また、2025年9月の国内新車販売台数は同+23.8%の4.8万台で、輸出台数は同+7.2%の8.6万台だった。
 
(3) FTIが10月22日に発表した2025年9月の自動二輪車生産台数は、前年同月比+9.7%の20.6万台で、8ヵ月連続でプラスを記録した。内訳は完成車(CBU)が同+6.9%の15.7万台で、完全組み立て部品(CKD)が同+19.8%の4.9万台。また、同月の国内販売台数は同+14.0%の13.4万台、輸出台数は同+7.8%の7.5万台だった。
 
(4) タイ中央銀行(BOT)が10月31日に公表した9月の経済・金融報告によると、タイ経済は前月比で加速したことが示された。製造業は、工場や製油所のメンテナンス完了後に徐々に再開し、物流や関連サービスも回復した。外需については、特にマレーシアやインド等の近隣国からの短距離旅行者数の増加や、電子製品輸出の増加によって拡大した。一方、内需は民間消費、民間投資ともに減速した。

2. 投資動向

(1) タイ投資委員会(BOI)は10月17日、総額約70億バーツ(約2.2億ドル)にのぼる新規投資案件を承認した。主な案件は、日系大手自動車部品メーカーによる電動車(EV)向けインバーター製造プロジェクト(約35億バーツ)と、地場大手病院グループによるがん専門医療センター設立計画(約35億バーツ)である。また、政府が今後4ヵ月間で推進する「Quick Big Win」政策の一環として、すでに承認済みの約70件(総額約3,000億バーツ)の投資案件の実施を加速させる新制度「タイランド・ファストパス」を導入した。BOIは、プロジェクト進行を阻害する課題の監視・解決を担う3つの小委員会を設置し、各案件が遅くとも2026年までに計画通り操業を開始できるよう支援する。課題は、電力供給、土地確保、ビザ・労働許可といった共通課題と、認可・規制関連等の個別課題に分類され、後者については案件ごとに対応する。ファストパス制度の対象は、すでに投資奨励申請を提出済みで、投資額が10億バーツ超(土地および運転資金を除く)のハイテク分野(バイオテクノロジー、EVおよび主要部品、半導体・先端電子機器、デジタル技術、AI)案件とされる。選定された案件は、雇用創出、国内サプライチェーンの強化、技術革新を通じて高い経済波及効果をもたらすことが期待されている。このほかBOIは、EVおよびエネルギー貯蔵システム(ESS)向け高密度バッテリーセルの主要部材製造を促進する新たな優遇措置も承認した。対象となる部材は、カソード(正極)、アノード(負極)、電解液、セパレーター等で、機械・原材料・部品の輸入関税免除および輸出目的の生産に対する法人税3年間免除が適用される。
 
(2)BOIは、2025年1~9月期の投資申請額が前年同期比+94%の1兆3,700億バーツ(約422億ドル)に達し、BOI設立以来60年間で過去最高を記録したと発表した。主因は、デジタル関連やスマート電子製造等、ハイテク分野を中心とする大型の外国直接投資(FDI)案件の増加によるもの。投資申請件数は前年同期比+23%の2,622件となり、このうちFDI案件が9,853億バーツを占め、全体の約72%に達した。ナリットBOI長官は「1~9月期の実績はすでに2024年通年比で+22%となっており、これはタイ経済の潜在力と、ハイテク分野を重視した投資戦略の成果である」と述べた。分野別では、デジタル(主にデータセンター)が119件・6,128億バーツと突出しており、次いで電気・電子(E&E)が382件・1,841億バーツ、自動車・自動車部品が229件・710億バーツ、農業・食品加工が228件・472億バーツ、石油化学・化学が230件・368億バーツ、再生可能エネルギーが742億バーツ、工業団地開発・運輸・物流等が1,774億バーツとなっている。国別では、シンガポールが3,598億バーツで最も多く、次いで香港(2,373億バーツ)、中国(1,429億バーツ)、英国(1,003億バーツ)、日本(738億バーツ)の順となった。ASEAN域内およびアジア諸国からの投資拡大が引き続き顕著となっている。

3. 金融動向

タイ中央銀行(BOT)の発表によると、9月末時点での金融機関預金残高は25兆9,720億バーツ(前年同月比+3.4%)、貸金残高は30兆5,360億バーツ(同+0.8%)。また、政策金利は10月8日に1.50%に据え置かれた。

4. 政治動向、その他

(1)タイ王室庁は10月25日、シリキット王太后が10月24日夜に崩御されたと発表した。ワチラロンコン国王は王室および王室関係者に対し、10月25日から1年間の喪に服すよう命じた。これを受け、アヌティン首相は、政府機関に対して30日間の半旗掲揚を指示し、公務員や国営企業も1年間の喪に服すと発表した。民間企業については、90日間は白黒または控えめな色の服を着用し、コンサートなど娯楽に該当する行事については、30日間は節度をもって調整または延期するよう協力が求められた。
 
(2)10月7日の閣議で、総額440億バーツの予算が承認された経済刺激策「コンラクルン・プラス(半額補助施策)」について、個人向け登録が10月20日に開始され、10月29日から利用が始まった。対象は、受給者登録済みの16歳以上のタイ国籍を有する約2,000万人で、福祉カード保有者(約1,340万人)は別途給付が行われるため対象外となる。登録および利用はいずれも、プラユット政権下で実施された従来の半額補助施策と同様に、電子財布アプリ「パオタン」を通じて行う。1日の補助上限は200バーツで、12月31日までの期間中に利用できる総額は、2024年度の所得税申告者が2,400バーツ、未申告者が2,000バーツとなっている。財務大臣のエクニティ氏は、この政策により通年の国内総生産(GDP)成長率が0.3~0.4%押し上げられるとの見方を示した。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 
当記事は、三井住友銀行バンコク支店がとりまとめた資料を、同支店のご好意により利用させて頂いています。
 
詳細記事/統計データ.
(2025年11月10日)