サイトイメージ
文字サイズ:   

タイ国経済概況(2025年10月)

トップページ

1.景気動向

(1)エネルギー政策計画事務局(EPPO)の発表によると、2025年上半期のタイのエネルギー消費による二酸化炭素(CO2)排出量は前年同期比▲4.6%の1億2,160万トンで、2023年から減少傾向が続いている。燃料別の排出量は、天然ガスが同▲8.5%(3,940万トン)で減少率が最も大きい。一方、石油は同+0.6%(5,310万トン)と増加した。エネルギー単位当たりの排出量は2024年上半期の1.97トン/TOE(石油換算トン)から1.92トン/TOE(▲2.5%)へ減少した。また、新エネルギー大臣のアッタポン氏は、新Net Zero目標「Net Zero 2050」が組み込まれた電力開発計画(PDP)改定案を4ヵ月以内に完成させる予定と9月30日に発表した。
 
(2) タイ工業連盟(FTI)が9月23日に発表した2025年8月の自動車生産台数は、前年同月比▲6.1%の11.2万台で、2ヵ月連続のマイナスを記録した。内訳は国内向けが同+4.1%の3.8万台、輸出向けが同▲10.7%の7.4万台。また、2025年8月の国内新車販売台数は同+5.4%の4.8万台で、輸出台数は同▲17.3%の7.1万台だった。
 
(3) FTIが9月23日に発表した2025年8月の自動二輪車生産台数は、前年同月比+6.0%の18.2万台で、7ヵ月連続でプラスを記録した。内訳は完成車(CBU)が同+4.7%の15.1万台で、完全組み立て部品(CKD)が同+13.0%の3.1万台。また、同月の国内販売台数は同▲1.1%の13.0万台、輸出台数は同+7.1%の6.3万台だった。
 
(4) タイ中央銀行(BOT)が9月30日に公表した8月の経済・金融報告によると、タイ経済は前月比で減速したことが示された。製造業は、自動車および飲食料品の需要低迷に加え、過剰在庫や工場のメンテナンス等の影響で鈍化し、物流等関連サービスにも波及した。一方、観光業は国内外を問わず収入が増加したことで回復がみられた。電子製品の輸出は、前月の駆け込み輸出の反動で落ち着いたものの、物品輸出、民間消費、民間投資は安定的に推移した。

2. 投資動向

(1) タイ投資委員会(BOI)は、半導体・先端エレクトロニクス産業への戦略的投資誘致を目的として、9月8日~12日にかけて高等教育科学研究省(MHESI)および在米タイ大使館とともに、アリゾナ州とカリフォルニア州を訪問し、現地の有力企業と面談した。今回の渡米は、今年4月に続く2回目であり、国家半導体・先端エレクトロニクス産業政策委員会が掲げる目標の達成を目的としている。主な目標は、①2025~2029年に5,000億バーツ超の投資を誘致すること(特に高度技術を要する上流産業を重視)、②半導体分野で5年間に8万人の人材を育成すること、の2点である。ナリットBOI長官は、「タイは電子機器製造拠点として50年以上の実績を持ち、特に組立・テスト工程に強みがある。今後はウェハー製造、チップ設計、先端生産工程といった上流工程への拡張にポテンシャルがある」と述べ、その実現には先進企業の誘致、国内サプライチェーンおよびエコシステムの構築、産・官・学の連携による人材育成が不可欠との見解を示した。また今回の訪問では、MHESIとアリゾナ州立大学(ASU)が覚書(MOU)を締結し、今後の人材育成を支援する内容が盛り込まれた。2022~2024年にタイ国内で半導体・先端エレクトロニクス分野への投資促進認可を受けたプロジェクトは406件にのぼり、投資総額は6,000億バーツを超えている。なお、主な出資国は米国、日本、欧州、中国、台湾等である。
 
(2)BOIは2022年9月より「長期居住者(LTR)ビザ」を開始した。本制度は、世界中の富裕層、投資家、退職者、専門人材を対象としており、マルチプルエントリー、デジタルワークパーミット、税制優遇、入国管理サービスの簡素化といった特典を提供している。制度開始から3年で、合計約230億バーツの経済効果を創出した。内訳は主に、①直接支出で約132億バーツ、②富裕層グローバル人材および富裕層退職者による投資で約81億バーツ、③ビザ発行手数料で約3.5億バーツ、④高度技能人材からの所得税で約8億バーツとなっている。特に、2025年1月の申請要件緩和以降、申請数が大幅に増加している。ナリットBOI長官は「LTRビザは、将来の産業を支えるグローバル人材と投資を積極的に受け入れるというタイのビジョンを体現している」と述べ、「競争力強化と経済成長の両面で成果を上げており、まさに“WIN‒WIN”の仕組みだ」と評価した。今後、BOIは申請手続きのデジタル化、税制優遇の拡充、産業分野別の特化型滞在制度の導入等をさらに強化し、タイを世界中の人材と投資を惹きつけるグローバルハブとして一層発展させていく方針を示した。

3. 金融動向

タイ中央銀行(BOT)の発表によると、8月末時点での金融機関預金残高は26兆620億バーツ(前年同月比+4.3%)、貸金残高は30兆4,890億バーツ(同+0.3%)。また、政策金利は10月8日に1.50%に据え置かれた。

4. 政治動向、その他

9月7日に正式にタイ第32代首相に就任したアヌティン氏の新内閣は、9月19日にワチラロンコン国王の承認を受けた。閣僚の所属政党はタイ誇り党、クラータム党、国民国家の力党等で構成されており、主要経済閣僚には外部からの人材も起用されている。内閣の所信表明は9月29~30日に行われ、アヌティン首相が以前に発表した経済問題、カンボジアとの国境問題、自然災害、麻薬・詐欺等の社会問題への対応策に加え、デジタル行政の推進や不要な法律の廃止等、法制度改革も盛り込まれた。また、10月7日の閣議では、支出削減策の一環として「コンラクルン(コペイメント)」計画が承認された。さらに、アヌティン首相は今後4ヵ月以内、すなわち2026年1月までに下院を解散する意向を明らかにした。
---------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
 
当記事は、三井住友銀行バンコク支店がとりまとめた資料を、同支店のご好意により利用させて頂いています。
 
詳細記事/統計データ.
(2025年10月10日)