1.景気動向
(1)タイ商務省は、2026年第1四半期の輸出額が前年同期比+17.6%の961.7億米ドル、輸入額が同+32.4%の1,056.5億米ドルとなり、貿易収支は94.8億米ドルの赤字となったと発表した。品目別輸出額では、農産物・加工品が同▲2.1%(117.5億米ドル)となり、このうちコメは同▲16.7%(9.6億米ドル)、天然ゴムは同▲22.5%(12.2億米ドル)だった。一方、主要工業製品は同+21.3%(818.8億米ドル)、うち自動車・同部品は同+6.2%(106.7億米ドル)となった。国・地域別輸出額では、首位の米国向けが前年同期比+41.8%の224.3億米ドル、次いで中国向けが同+9.8%の96.6億米ドル、日本向けが同+7.2%の63.0億米ドルとなった。一方、地政学的リスクを抱える中東向けは同▲13.2%の28.2億米ドルに落ち込んだ。商務省は、デジタル・AI関連製品の需要拡大が輸出の押し上げ要因になるとみる一方、ホルムズ海峡を巡る危機による生産コスト上昇が、貿易相手国の消費を冷やす可能性があると指摘している。このため、2026年通年の輸出額については、最悪の場合で前年比▲3%、好条件がそろえば同+8%になるとの見通しを示した。
(2) タイ工業連盟(FTI)が4月27日に発表した2026年3月の自動車生産台数は、前年同月比+2.7%の13.3万台で、7ヵ月連続でプラスを記録した。内訳は国内向けが同▲4.2%の4.5万台、輸出向けが同+6.5%の8.9万台。また、2026年3月の国内新車販売台数は同+7.3%の6.0万台で、輸出台数は同▲0.6%の8.0万台だった。
(3) FTIが4月27日に発表した2026年3月の自動二輪車生産台数は、前年同月比+3.2%の24.1万台で、3ヵ月ぶりにプラスを記録した。内訳は完成車(CBU)が同+3.7%の19.3万台で、完全組み立て部品(CKD)が同+1.0%の4.8万台。また、2026年3月の国内販売台数は同+8.2%の16.4万台、輸出台数は同+9.3%の10.1万台だった。
(4) タイ中央銀行(BOT)が4月30日に公表した3月の経済・金融報告によると、タイ経済は前月比でおおむね横ばいで推移した。外需面では、中東情勢の影響で航空便が減少し、中東や欧州からの観光客数が大幅に落ち込んだ。ただし、欠航による滞在期間の長期化を背景に、観光収入は増加した。一方、物品輸出はコンピューターやプリント基板を中心に伸びた。内需面では、燃料価格高騰への懸念による駆け込み需要で燃料購入が増加したものの、ホテルやレストランなどのサービス支出が減少し、個人消費全体は落ち込んだ。同様に、機械・設備投資の低迷を受けて民間投資も減少した。供給面では、製油所の再稼働により石油製品の生産が持ち直したほか、輸送機器製造も国内需要を背景に増加した。一方、観光関連サービス業は、観光客減少の影響を受けて低迷が続いた。
2. 投資動向
(1) タイ投資委員会(BOI)は4月29日、2026年第1四半期に受理した投資案件は624件で、申請額は前年同期比2.4倍の1兆170億バーツ(約318億米ドル)に達したと発表した。分野別では、データセンターやクラウドサービス関連案件が申請額を押し上げ、デジタル産業が引き続き首位となった。デジタル産業の申請件数は48件で、額は8,737.4億バーツ(約273億米ドル)と全体投資額の約86%を占めた。これに続き、プリント基板(PCB)やハードディスクドライブ(HDD)等、デジタル分野とも関係の深い電子製品・電気機器分野は80件、申請額は404.6億バーツ(約13億米ドル)となった。タイ向け外国直接投資(FDI)は427件、9,658.7億バーツとなり、全体の申請額の9割超を占めた。国・地域別では、シンガポールが8,379.4億バーツで首位となり、英国(471.5億バーツ)、日本(225.9億バーツ)、中国(173.3億バーツ)、香港(161.0億バーツ)が続いた。BOIのナリット長官は、タイは従来の生産拠点から次世代産業の拠点へと転換しつつあると述べた。また、インフラや安定した電力供給網、クリーンエネルギーの生産力に加え、地政学的対立の外側に位置していることが、タイの強みだと指摘した。
(2)エクニティ副首相兼財務相が率いるタイ政府代表団は、4月13~17日に米ワシントンD.C.で開催された2026年IMF・世界銀行春季会合に参加した。この機会を活用し、AI普及に伴う需要拡大を背景に半導体産業への投資誘致を図るため、米国の半導体関連大手3社と意見交換を行った。協議相手には、すでにタイに30億バーツ超を投資している熱制御チップメーカーのフォノニック(Phononic)、世界第5位の半導体受託製造企業グローバルファウンドリーズ(GlobalFoundries)、半導体自動試験装置(ATE)大手のテラダイン(Teradyne)が含まれていた。フォノニック社は、AI向け高性能演算システム向け冷却チップを手掛けており、タイを主要生産拠点として活用している。現在、米国から半導体材料の前工程生産をタイへ移管する準備を進めている。 一方、グローバルファウンドリーズ社に対しては、タイ政府側が半導体前工程(Wafer Fabrication)工場の新設を呼びかけた。テラダイン社は、タイ国内での調達や委託生産を拡大する方針を示した。また、世界各地でSEMICON展示会を主催する国際半導体製造装置材料協会(SEMI)とも協議を行った。BOIは今年3月にSEMIへ加盟しており、世界の半導体企業とのネットワーク強化や、将来的なタイでのSEMICON開催の可能性について意見を交わした。このほか、全米商工会議所(USCC)の加盟企業とも会談し、米企業側は、タイが単なる対米輸出拠点ではなく、アジア地域事業の中核拠点として重要な役割を担っているとの認識を示した。
3. 金融動向
タイ中央銀行(BOT)の発表によると、2026年3月末時点での金融機関預金残高は27兆370億バーツ(前年同月比+4.2%)、貸金残高は30兆7,280億 バーツ (同+1.0%)。また、政策金利は2月25日に1.25%から1.00%に引き下げられた。
4. 政治動向、その他
(1)タイ政府は5月5日の閣議で、中東情勢の緊迫化に伴うエネルギー価格高騰への対応と、エネルギー転換推進のため、財務省に4,000億バーツの借入枠を認める緊急勅令案を承認した。資金使途は、①国民生活の負担軽減や農業従事者、小規模事業者への支援に2,000億バーツ、②化石燃料依存を低減するためのクリーンエネルギーへの転換に2,000億バーツ。借入が全額実行された場合、2027年度末時点の公的債務残高の対国内総生産(GDP)比は約69.9%となり、政府が定める上限の70%に近づく見通し。エクニティ副首相兼財務相は同日、借入資金は全額を国内市場で低利調達すると説明し、その一部をコーペイメント政策「タイ・チュアイ・タイ・プラス」に充当する可能性があると明らかにした。
(2)4月21日、社会保険の歯科治療費給付拡充に関する告示が官報に掲載された。新制度では、親知らずの抜歯費用が従来の年間900バーツの一般歯科治療枠から分離され、治療の難易度に応じて1本当たり1,500~2,500バーツを給付する。また、部分入れ歯・総入れ歯の給付上限額が引き上げられ、入れ歯修理費も新たに給付対象となった。さらに、総入れ歯が装着できない重度症例を対象に、インプラント支持型義歯(オーバーデンチャー)についても新たに給付制度が導入された。これらの新給付は5月1日から適用されている。対象者は、受診前15ヵ月以内に3ヵ月以上保険料を納付した被保険者で、離職後も最長6ヵ月間は給付を受けることができる。なお、国籍による制限はなく、外国人加入者にも適用される。
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当記事は、三井住友銀行バンコク支店がとりまとめた資料を、同支店のご好意により利用させて頂いています。
(2026年5月16日)